ラクすることを忘れた「脳」に振り回されずに楽しく生きる方法

自分から好んで自分を辛い状況に追い込む生物は、地球上で人間だけ。ストレスフルな悩み多き人生を選ばせているのは、高度に発達した“脳”のせい?!  “科学界のインディ・ジョーンズ”こと、気鋭の生物学者にして、『考えすぎる脳、楽をしたい遺伝子』の著者・長沼毅先生に、“考えすぎる脳”から解放され、ココロとカラダが元気になるヒントをうかがいました。

プロフィール

  • 長沼毅(ながぬま・たけし)さん
    長沼毅(ながぬま・たけし)
    1961年、三重県四日市市生まれ、4歳から神奈川県大和市で育つ。専門分野は、深海生物学、微生物生態学、系統地理学。キャッチフレーズは「科学界のインディ・ジョーンズ」。海洋科学技術センター(JAMSTEC、現・海洋研究開発機構)勤務を経たのち、広島大学大学院統合生命科学研究科教授。筑波大学大学院生物科学研究科修了・理学博士。

疲れているのに寝ない動物は人間だけ

疲れているのに寝ない動物は人間だけ

一日の仕事を終えて、疲れた体で帰宅した。明日も朝が早いんだから、もう寝なくちゃ。そんなときでも、なんとなくスマートフォンなどでついついネットサーフィンをして、夜更かしをしている。そんな日々を送ってはいないだろうか。すぐにベッドに入ってぐっすり眠れば、勤務中に眠くなったりしないし、ストレスも溜まらないのに。

“わかっちゃいるけど、できないのが人間。でも、それが普通でしょう?”

みんなが思うこの“普通”に対して、「それは人間の“脳”が引き起こすトラブルであり、生物学的に観ると異常なこと」と指摘し、「現代人は“脳”のトラブルに振り回される生き方をそろそろ見直すべき」と提唱するのが、生物学者の長沼毅さんだ。

「人間以外の動物は、眠くなったら寝るし、疲れたら休む。お腹が空けば餌を探して食べる。体の欲求に忠実に生きているからです。こうした動物と人間とのいちばんの違いは、“脳”にあります。体の欲求に背いて疲れ果てるまで働いたり考えたりするのは、人間の進化の過程で“脳”があまりにも高度に発達してしまったためで、私たちの脳が“楽をすること”を忘れてしまった結果なのです」

高性能だけどトラブルを起こしやすいのが人間の脳

高性能だけどトラブルを起こしやすいのが人間の脳

長沼さんは、深海や火山といった極限状況に生きている生物がどのように生命を維持しているのか、その生態を研究してきた。調査のために、北極、南極、活火山、深海など、厳しい場所を幾度となく訪れた。

「だから、あだ名が“インディ・ジョーンズ”(笑)。僻地に行っては、毎回毎回『こんなのは嫌だ』という恐い思いをしているのに、調査の話がくるとまた行ってしまうんです。これは、周囲の人のせいなどではなく、私の『脳』がそうさせていること。誰もできなかった発見をしたいという“欲”、どんな未知があるのかという“好奇心”、そして依頼を断ったらどうなるのかという“恐れ”。こういったことはすべて、脳が生み出したものなんです」

人間の脳の特徴は、抽象的なことを考えられること。“メタ認識”といって、いろんなことを脳内宇宙で組み合わせて、今までなかったものを創造することができる。たとえば、弓矢の発明はその好例だ。しなる枝と弦、先端を尖らせた細い木、それぞれ役割を見出して組み合わせを思いつくのは、メタ認識がなければできない芸当なのだ。

「このメタ認識が道具の創造など建設的な方向に広がる分にはいいのですが、人間関係などに向き、脳内宇宙の中で“悩み”や“不安”や“恐れ”といった負のものを生み出し、頭の中でグルグルと堂々めぐりをしてしまうようになると、一転して人を苦しめるようになります。人間は脳内にそういう“バグ”を持っているのです」 私たちの脳はとても高性能だけれども、使いすぎたり考えすぎたりするとトラブルも起こしやすい。そう割り切って、脳に振り回されないようにすることが、疲れず、楽に生きられる第一歩だと長沼さんは言う。

考えすぎず「ラクをしたい遺伝子」の声に従おう

考えすぎず「ラクをしたい遺伝子」の声に従おう

長沼さんが研究してきた極限環境生物は、100度以上の高温の中や、1000気圧以上の高圧など、さまざまなストレスがかかる極限の状況下に置かれながら、その生命を維持している。実は長沼さんが、ストレスに過敏な人間の特質に思いを馳せるようになったきっかけも、極限環境生物の研究を通してだった。

「私たちから見ると極限の環境に思えますが、だからといって、極限生物は辛い思いをしながら生きているわけではありません。ストレスに強い彼らはそういうところで生きるのが当たり前で、人間が地上で普通に暮らしているように、彼らも彼らなりに普通に生活しています。また、人間にもストレスに強い人と弱い人がいます。我慢強い人、多少のことではへこたれない人。逆に、心配性だったり、ちょっとした心配事があるとくよくよしがちな人もいます。一般に、こうした差は、個々の性格や気質の違いによるものだととらえられていますが、個人の特徴、すなわち“個性”に、遺伝子が関与していることがわかってきました」

ここ数十年、マウスやチンパンジーを使った実験や、人を対象としたさまざまな分析・調査を通して、性格と遺伝の関係性を調べる研究が活発に行われてきた。その結果、人との共感能力に関連する「愛情遺伝子」や、攻撃性や凶暴性に関与する「暴力性遺伝子」など、独特の遺伝子が存在するらしいことが解明されつつある。

「個性に関与する遺伝子は人によって千差万別で、それぞれ得意な部分と不得意な部分が出てきます。それぞれの個性に対して、私たちは、『これは長所だ』『ここが欠点だ』と一喜一憂してしまいますが、でも、それは“脳”が勝手にそう思わせている幻であって、個性それ自体にいいも悪いもありません。そこには、ただ遺伝子が関係することによる得手不得手があるだけ。だから、大学で私が教えている悩み多き年頃の学生たちには、よくこう言っています。『脳が君にささやく戯れ言なんて無視しなさい。自分の遺伝子の言葉に耳を傾けなさい』と。他者からの評価や、他人との比較じゃなく、あるがままの自分を感じるという視点を持って、自分が向いていること、向いていないことを意識して行動すれば、人は、ストレスや悩みの少ない人生を選べるんです」

脳に振り回されずに楽しく生きるコツ

脳に振り回されずに楽しく生きるコツ

そうは言っても、人類は「常に悩みを抱えながら生きていく脳」を、進化によってもたらされてしまった。「脳に降り回わされずに生きるために、先生が実践していることは何ですか」と長沼さんに問うと、意外や、とてもシンプルな答えが返ってきた。それは、自分なりのルールを決めて行動すること。

「例えば私は、“こんなことをやりませんか、儲かりますよ”といった話を受けたときは、“必要であれば自分で稼ぎますから”と言って、即座に断るように決めています。私のルールの一例です。だから断るときに悩まないし、一秒たりとも迷いません。ルールという道具のいちばんすごいところは、“脳を軽々とすっとばせる”ところなのです」

ミスをしたときにはどうだろう。自分の立場が悪くなるのではという恐れから、脳の中には次々と言い訳が生まれる。しかし、罪悪感や後ろめたさが脳の中にあれば、言い訳をしようとする自分にストレスを感じることになる。

「だから私は『弁明、弁護、弁解の“三弁”はしない』と決めています。悪いことをしたと感じたら、できるだけ早く謝るように自分を仕向け、むやみに悩むことなく事態を収拾しようとしているのです」

ルールは自分で作らなくても、先人たちが残した「格言」を活用することもできる。「急がば回れ」「二兎を追う者は一兎をも得ず」「失敗は成功の母である」などなど……。何かもやもやとした気分に陥っているときや、戸惑っているときに、ふと昔の格言を思い出して、妙にスッキリしたり、ポンと膝を叩いて得心したりした経験が、あるのではないだろうか。

「格言はいわば、私たちの先人たちが、脳のバグを修正するための作業、“デバッグ”を行った結果できあがったものです。人間が人間である限り、脳のバグから逃れることはできないけれど、バグが引き起こす“悩み”や“不安”などの脳トラブルを効果的に回避できるルールは、先人たちがたくさん残して、今に伝えてくれている。これを活用しない手はありません」

もう一つ、疲れたり、ストレスを感じたりしたときは、自然の中に飛び出してみることも有効だと、長沼さん。

「いわゆる“リフレッシュ”ですが、もう少し掘り下げて言うと、他でもない、この厄介な脳から離れるためです。文明を持つよりはるか昔の人類は、風の音や虫の声など、自然の中のさまざまな現象を感じ取り、そのフィーリングに従って生きていました。そんな自然の状態に脳のコンディションを戻そうというわけです」

能力、能率、有能、才能……。思えば、私たちは常日頃、パフォーマンスを最大限にUPさせようと、血道をあげて生きている。もちろん、それはビジネスシーンやキャリアアップのために、とても大切なこと。 でも、ひどく疲れたり、人間関係などでストレスを感じたりしたら、いっとき“考えすぎる脳”が放つささやき声をシャットアウトするのもいい。そして、生物の一員であるヒトが元来持っている、「生きやすさを希求する性(さが)」に身を任せてみてはいかがだろうか。


企画・編集:株式会社エアリーライム ライター:腰本文子

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