【認知症への備え】認知症の家族との“いい時間”の過ごし方 vol.1 その不思議な行動とどう向き合う?

子や孫の名前を間違えたり、何を食べたか忘れたり、何度も同じことばかり繰り返し言っている……。いよいよ認知症? どう対応したらいいの⁉ と不安を抱えていませんか? 自分の親や祖父母にその兆候や症状が現れた時、一体どう対応すればいいのでしょうか。介護の現場で長く働き、現在は広島のグループホームで施設長を務めながら、愛とユーモアあふれる著書『認知症の人のイライラが消える接し方』を執筆された植 賀寿夫さんにお話を伺います。

植 賀寿夫さんプロフィール

  • 植 賀寿夫さん

    植賀寿夫(うえ・かずお)
    1979年、広島県生まれ。介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。専門学校を卒業後、介護老人保健施設、デイケア、デイサービスなどを経て「みのりグループホーム川内」に管理者として入職、現在は施設長。自らも現場でケアに携わるほか、18年にわたる経験を活かして他施設での職員研修、地域の老人会、学校などで認知症の講座を担当している。2020年5月『認知症の人のイライラが消える接し方』(講談社)を上梓。

認知症になっても、家族の関係は変わらない

認知症になっても、家族の関係は変わらない

物忘れ、勘違い、話が噛み合わないなど、ご家族に認知症らしき症状が現れたら、誰でもドキリとすると思います。「あぁ、いよいよ怖い病気にかかった」なんて不安に思いますよね。認知症は脳の細胞が加齢やさまざまな要因で減少したり、働きが悪くなったりすることで起こる、記憶障害や判断力低下などの“症状”です。そして、近年は高齢者の誰にでも起こり得るものと言われています。

認知症になり、今までできたはずのことができなくなって日常生活に支障が出てくると、周囲の接し方が変わり、本人も家族も混乱して、どこかギクシャクしてしまいます。以前と変わってしまった親や祖父母を見て、「変わってしまった。別人になってしまった…」などと嘆く方は少なくありません。でも、認知症になっても、おじいちゃんはおじいちゃん、おばあちゃんはおばあちゃん。親は親です。実は認知症になったご本人も、口にはしなくても、健康な時の自分との変化には気づいています。混乱し、心細さを抱えながら、子や孫に迷惑をかけたくない、こんな姿を見せたくないと、必死にもがいている方にたくさん出会いました。

認知症の家族とどう接していくか――そこに教科書や本で学ぶような事例だけでは通用しませんでした。症状も人それぞれなら、それに対応するご家族の関係性もまたそれぞれだからです。確実に言えるのは、家族には医者や施設とは違い「これまでの関係」があるということです。私たち施設職員からすると、家族が思っている以上に「関係の力」の影響が大きいのです。

「家族だからこそ」できる接し方を私は何度も見せていただき、大変勉強になりました。その中で、認知症の方に少しでも穏やかに過ごすための「声かけ」や「関わり方」のコツのようなものを、できるだけお伝えしていくつもりです。知っていただくことで役に立つことがあるかもしれません。

認知症の初期症状と引き起こる可能性のある症状について

認知症の初期症状と引き起こる可能性のある症状について

認知症の初期に見られる症状には、加齢による脳の認知機能の低下によって起こる、「物忘れや理解力、判断力の低下」があります。認知症の典型的な症状で、進行します。現時点では、進行を遅らせることはできても、完治は難しいといわれています。

そして、人によっては、単なる物忘れから「怒り」や「不安」などが呼び起こされることがあります。このような症状は、その人の置かれた環境や家族関係、性格やそれまでの人生の歴史と深く関わっていて、表れ方に個人差があります。認知症の方すべてに発症するとは限らず、突然現れたり、軽減したり、消失することもあります。

認知症の初期症状と引き起こる可能性のある症状について

さまざまな症状にどう向き合う?

今回は、認知症の初期症状である「物忘れや勘違い」「について、具体的な例を挙げて、その対応を考えてみましょう。

Case① 同じことを繰り返し言われたら?

何度も同じことばかり言う祖父母や親に対して、その度に同じ受け答えをして流してしまっていいのか。悩むところですよね。時には「も~何回も!」と言いたくなりますよね。

ただ、認知症の方は強い不安を抱えています。そんな精神状態のときに“適当にあしらわれた”と感じることで、より不安を煽ってしまうことがあります。認知症の方は、おざなりにされたことをかなり敏感に感じ取ります。何度も同じことを言ったり聞いたりするということは、分からないことを確認したいのかもしれませんし、前に答えてもらった内容を忘れた、もっと言うと納得したことを忘れているのかもしれません。聞く側としては回数が重なるとイライラしたり、うんざりすることもあるかもしれませんが、同じ受け答えを繰り返すのは問題ありません。時には、例えばお茶を入れたり、肩を揉んであげたり、何か別のことに気持ちが向くように工夫することも有効です。大切なのは、ありのままを受け入れてあげることではないでしょうか。

Case② 孫と娘を勘違いされたら?

家族の名前を間違って呼ぶというのは、よく見られる症状です。たとえ孫と娘を混同しているとしても、“身近な存在”ということは理解しています。心では“この人は自分の大切な人”だとわかっているが、脳の機能低下によって言葉の引用が間違ってしまっていると思うようにしてみてはどうでしょう。

そして、間違えられてもムキにならずに「あ~、おばあちゃん、惜しい!(笑)」くらいでいいのではないでしょうか。その時に訂正したとしても同じ症状は何度も起こるでしょうし、本人の混乱が大きくなるかもしれません。笑って、ちょっとツッコんで、流すくらいがちょうどいいのかなかと思います。

Case③ 財布がない、などいつも何かを探している

どこに置いたのか、片付けたのかを忘れてしまうことも、よくある症状です。私の施設にも、日課のように財布を探している入居者さんがいます。財布のありかはだいたい察しがつくので、まずは一緒に探す素振りをして、頃合いをはかって「ほら、ありましたよ!」と渡すと、「ああ、よかった~」で無事に終わります。初期であれば、置き場所を決めてメモをしたり、貼り紙をするなども有効かもしれません。

もし、そこに「盗まれた」とか「誰が持っている」など、他の登場人物が現れたら要注意。妄想が出た時の切り抜け方については次回詳しくお話ししますが、それは強い不安などを感じ始めている頃に引き起こされる症状であることが多いです。その場合、認知症の方は、財布を一緒に探してくれる人を求めています。不安を解消したいのです。私は「●●が見当たらなかったら、いつでも言ってね、僕が絶対探し出してあげるから」と、安心してもうらようにしています。

大切なのは、できる範囲で付き合うこと

大切なのは、できる範囲で付き合うこと

認知症を発症した家族に対して、悲観、焦り、罪悪感などのネガティブな感情を持ってしまうことがあるかもしれません。でも、「歳も歳だし仕方ないよね」とありのままを受け入れられれば、そのような感情も和らぐかもしれません。家族はできる範囲で付き合ってください。それでも難しい時には、私たちのような専門職を頼っていただきたい。

最初に言いましたが、認知症になっても、家族の関係は変わりません。おじいちゃんはおじいちゃん、おばあちゃんはおばあちゃん、親は親です。病院や施設で私たちは、「認知症の患者さん、入居者さん」として対応します。当然、家族の方の関係性とはまったく違います。

家族はできるだけストレスを溜めないことが大事です。時には言い過ぎてしまったり、喧嘩したりしてもいいじゃないですか。もちろん程度もありますが、私から見たら「微笑ましいな」と思うことも多いです。大切なのは、「今まで通りの付き合い」です。家族としてできることだけをする。特別扱いせず暮らす、これが大切です。家族が必要以上に困惑すれば、本人も困惑してしまいます。

それでももし不安なことがあれば、相談できる人を探すことも大切です。一人で抱えないで欲しいと思います。

次回は、認知症の方が抱えるもう一つの世界との付き合い方についてです。


企画・編集:株式会社エアリーライム 談:植賀寿夫 ライター:菅野和子

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