
祖父母や親が認知症かもしれない!? そんな兆候が表れたら、家族はどう接したらいいのでしょうか。第1回では、認知症の初期症状である「物忘れや勘違い」の例を挙げて、『認知症の人のイライラが消える接し方』の著書がある植 賀寿夫さんにアドバイスをいただきました。今回は「妄想」や「理不尽な言動」などにつながることもある、認知症の方の「もうひとつの世界」との付き合い方についてのお話です。
食べたのに「ごはんまだ? 」にどう対応する?

認知症のお年寄りが不可解な言動をした時は、すぐに否定したり、逆に我慢したりせず、自分たちが認識しているのとは異なる「もうひとつの世界があるんだ」と一歩引いて捉えてみるのがよいと思います。
例えば、食事を済ませたのに「ごはんまだ?」と言われた時。つい「さっき食べたでしょ!」と返して、ケンカになってしまいがちです。「食べたよね」と言いたくなる気持ちはわかりますが、認知症の方にしてみれば、家族の都合を押し付けられ、「説得」されているように感じられるでしょう。説得は功を奏さないことが多いものです。私は、説得よりもその人の世界に合わせて「納得」してもらうようにしています。いくつか例をご紹介しましょう。
①「今、準備中」と伝える
「自分はごはんを待っている」と思い込んでいる人の世界に合わせてみます。「今、すっごい料理作ってるからね!」とか「仕込みが大変で遅くなっちゃった」などとなるべく明るい雰囲気で伝え、その間に次の話題を考えます。話題が変われば、ごはんを待っていること自体を忘れてしまう場合も多いものです。
②本当にごはんを出す
「空腹だ」という訴えに素直に応じてみるというのも一つの対処法です。残っているごはんやおかずを出してみると、だいたいは口をつけても「なんか今日は食べられないねぇ」で終わるか、食べたとしてもわずかでしょう。3杯目にいったことはありません。

③代わりのものを出す
とはいえ、いつもごはんが残っているとは限らないし、片付けが終わったところや深夜にそんなことを言われても困りますよね。そんな時のために、小さなおまんじゅうなどのちょっとした食べ物を用意しておくといいと思います。「こんなものならあるけど食べる?」と言うと、案外納得してもらえることが多いです。
④同じ立場を演じる
糖尿病などの疾患を持っていたとしたら、ごはんもお菓子もたくさん食べられないこともあります。もしかしたら、本当に空腹を感じているのかもしれません。そんな場合には、「お腹が空いた」にお付き合いします。「僕もお腹すいちゃって、さっき頼んで待ってるところだよ」という具合に一緒に待ち、少しして私だけ「ちょっと聞いてくるね」とその場を離れてみるのです。その頃には自然に解決していることがあります。
まずは、何を言われても「否定」や「説得」から入らないこと。これは、この「ごはんまだ?」の例だけではなく、認知症の方とよい関係を築くために重要な要素です。
余談ですが、中学生と話をした時に、「おばあちゃん、おじいちゃんに、ごはんまだ?と言われたらどうする?」と問いかけたところ、ほとんど全員が「何か作ってあげる」と答えました。「何作るの?」と聞いたら、「ペペロンチーネ」(笑)。これにはちょっと感動しました。「孫」の存在というのは特別です。娘・息子や施設の職員にはできないことも、孫を頼ったらうまくいくかもしれません。
わからなくても、その人の世界に寄り添ってみる

物忘れや勘違いなどの初期症状に加えて、妄想や幻覚などが表れて話が噛み合わなくなってくると、だんだんと家族関係がギクシャクしてしまいがちです。でも認知症のこうした症状は、対処の仕方で軽減することもあるのです。
会話の中に知らない物や人が登場したり、何を言っているのかまったくわからない……、そんな時は「彼(彼女)は自分とは違う事実を見ているんだ」と割り切り、「その世界にお邪魔する」という感覚で接してみてください。聞き流したり、無視したりはせずに、できる範囲で向き合ってみることです。
でも、お邪魔するとはいえ、ご本人がどんな世界にいるのかを理解するのは難しいもの。私が経験から学んだ接し方の基本は以下の3つです。
①話の腰を折らない
そのつもりはなくても、無自覚にその人を「否定」している場合があります。例えば、言っていることの意味がわからなくて「えっと、それは何? △△のこと?」と聞き返したとします。健常な人との会話なら、何の問題もありません。でも認知症の方は、ペースを乱されたことで「話の腰を折られた」と受け取るかもしれません。単に聞き返されたことでイラッとしたり、不安を感じることもあります。
そんな時、私はこちらからの言葉を減らして、「はぁはぁ」「うんうん」「そうそう」と相槌を打ちます。適当に思われるかもしれませんが、ちゃんと聞いています。そして、理解できなくても聞き返しません。話のペースを乱さないことに集中していると、そのうちなんとなくペースが合ってきます。ひと通り話が終わったところで、「僕に何かできることはありますか?」と聞いてみて、もし頼みごとがあるようなら、「お父さんに伝えておくね」など、頼れる人の名前を出すと安心してもらえると思います。

②世界に同調する
「同じ立場である」ことを態度で示すことも有効な対処法のひとつです。施設での話ですが、深夜にウロウロと出口を探している入居者の方がいました。どうやらどこかに「出勤」しようとしているようです。しかも、ドアを「引き戸」だと思っていて、ドアノブに触ろうともせずに出口を探し続けています。こんな場合は、「もう退職したでしょ」と言い聞かせたり、無理に寝かせたりはしません。「うーん、出口ありませんね」「これ開きませんね」と一緒に探す行動をしばらく取ってから、「諦めますか…」とため息をついてみました。彼も疲れたのか「寝て待てということか」という展開になりました。急がば回れ。世界にお邪魔して付き合ってみると、意外と解決できる場合も多いのです。

③ルールを探る
認知症の方には、それぞれ特有の「ルール」があります。その人の世界観、価値観、考え方、習慣、好みなど、それまでの人生すべてが関わっているので、まさに十人十色です。ご家族の場合はどんなタイミングで態度が変わるか、反応が変化するかを一度観察してみてください。例えば、原因はわからないけれど何かに怒っていたら、話の中で人物名や場所などを注意深く聞いていると、ヒントが見つかることがあります。
これも施設での話ですが、いつも怒ってばかりいる方がいました。ある時、私に「苦労知らずめ!」と怒るので、「僕のお父さんってね…実はね…」と若い頃に父を亡くし、母が苦労をして育ててくれたこと、母に感謝していることを話しました(実話です)。20分ほど経つ頃には、ずいぶん態度が優しくなっていました。いろいろ話すうちに、この方は正義感が強いこと、そして“善い行い”をしている人になら優しく接するということが分かってきたのです。そんな風に、何かしらその人なりの「ルール」が発見できると、よい時間を過ごす助けになると思います。
安心してもらうための手段を用意しておく
認知症の方の世界に同調する、またルールを探すために「演技をする」ことは、時に必要です。特に、話が怒りに変わりそうな場面や、同じやりとりが長引いてお互いしんどい空気になった場合など、「その場から離れる=場面を変える」手段は持っていた方がいいと思います。「トイレに行く」や「携帯電話がかかってきた」でもいいでしょう。一旦場が変わると、自然と解決したりすることが多いものです。 肝心なのは、施設であれ家庭であれ、その手段が私たち介護する側が安心したいための演技なのではなく、本人に安心してもらうためのものであることです。本人に安心してもらうこと――それが認知症の方とよい時間を過ごすために、とても大切なことなのです。
*次回は、家族だからできること、施設や専門職に頼ってほしいことについて、お話を伺います。
企画・編集:株式会社エアリーライム 談:植賀寿夫 ライター:菅野和子
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