怒りに脳をコントロールされないための「アンガーマネジメント」

あんなに怒るんじゃなかった……、あの時とっさに言い返せなくてくやしい……。自己嫌悪に陥って後悔したり、地団太を踏んで悔しがったり。パワハラ、セクハラ等々、多くのストレスにさらされている私たちはいつも怒りの感情と隣り合わせで生きています。

どうすれば怒りにふり回されずにいられるのか。怒りと上手につきあうための心理トレーニング=アンガーマネジメントの日本の第一人者・安藤俊介さんに教えていただきます。

安藤俊介さんプロフィール

    • 安藤俊介さん

      安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)
      一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。企業、教育現場にある怒りの問題を解決する専門家。怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。米国のナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人として、ただ1人選ばれている。著書・監修書は国内に限らず、アメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムで翻訳され、累計65万部を超える

原始脳が司る怒り

原始脳が司る怒り

私は、もともとは怒りっぽい人間でした。それがアンガーマネジメントに出合って、ずいぶん怒りを感じることが減り、今ではアンガーマネジメントの専門家になりました。怒りを制するにはまずはその正体を知ることから。いったい怒りとは何なのか? どこから生まれてくるのか? 最初は少し難しい話になりますが一緒に学んでいきましょう。

実は、怒りは人間の脳の中でも原始脳が活性化することで生じると言われています。この原始脳とは、大脳辺縁系とも呼ばれ、人間が進化する前の性質、つまり動物として生きるために必要な機能を持った部分のこと。動物には自分の身を守る闘争・逃走反応という仕組みがあって、危機に瞬時に反応する状態を作ります。気づいたら我を忘れて怒鳴っていた、キレた、という状態は、この原始脳の反応がそのまま出ているということなのです。

一般に、「怒り=悪」と考えがちですが、そうではありません。怒りも、嬉しい、楽しいという他の感情と同じ人間の大切な感情の一つです。怒りを否定せずに自分の怒りと向き合い、コントロールすればいいのです。

怒りはネガティブな発想が生み出す

怒りはネガティブな発想が生み出す

では、怒りはどのように発生するのでしょうか? そのメカニズムについて、三つの段階を踏んでお話ししましょう。たとえば、「歩いているときぶつかってきた人が何も言わずに行ってしまった」とします。これが第一段階の、「出来事の遭遇」。次に、第二段階は、その出来事に対しての「意味づけ」です。「前を向いてちゃんと歩くべき。ぶつかったら謝るべき」。このように考えたAさんには、第三段階で怒りの感情が発生してしまいます。一方、Bさんは「急いでいるのだろう。わざとじゃないだろう」と考えるので、怒りの発生という第三段階には進みません。

さあ、ここでポイントになるのが、第二段階の意味づけです。怒りは意味づけの段階でネガティブな発想をすることによって生まれてしまいます。つまり、怒りの発生は、出来事そのものではなく、「意味づけ=受け取る人の考え方」によるものなのです。

このように、出来事の捉え方は人それぞれ。自分が当たり前だと思っている「常識」をアンガーマネジメントでは“コアビリーフ”と言いますが、「待ち合わせは5分前までに来るべき」「目上の人には敬語を使うべき」等、自分の中に「こうあるべき」というコアビリーフをたくさん設けてしがみついている人ほど、他人を受け入れられずに怒りの感情を持ちやすいと言えます。

他人には通用しない自分の「常識」

アンガーマネジメントで怒りをコントロールする早道は、他人を変えるのではなく、自分自身を変えることです。そのために、まず、自分の怒りの感情を紙に書き出して「見える化」してみましょう。書くことのメリットは自分の怒りを客観視できることと、怒りをクールダウンできること。書いたものを読み返してみると、「こんなことで怒っていたのか」と冷静に自分を見ることができ、さらに、怒ったきっかけや、自分の願望、相手の許せないポイントがわかると、怒りに隠れた自分の本音を整理することができます。

また、先に述べた「こうあるべき」というコアビリーフをリストアップしてみると、自分にどんなこだわりがあるかがはっきり見えてきます。それらを重要度の高いものとそうでないものに分けて、重要度の低いものから手放し、コアビリーフを緩めていけば、怒りの感情はだんだん減っていくことでしょう。

6秒数えてクールダウン

6秒数えてクールダウン

自分自身の見直しを進める一方で、なるべく余計なストレスを生まないようにする環境づくりも大切です。まず、反射的な怒りに対応するテクニックの一つは「怒りを感じたら、6秒数える」こと。怒りが生まれてから理性が働くのに6秒かかると考えられています。カッとなって出た言葉は怒りを増強して、その結果、取り返しのつかないことを招きかねません。

また、怒りがだんだんエスカレートして収まらないとき、その場をいったん離れてクールダウンすることです。もちろん、その際は相手に「いったん中断させてください」と断ることが大前提。どちらのケースも、時間をおくことで冷静さを取り戻すことができます。

さらに、怒りは伝染しやすいので、悪口大会、愚痴大会と化した集まりには参加しないこと。そして、家族や、会社の上司や部下のコアビリーフを理解して接すると、相手をイライラさせることが少なくなり、結果的には自分のストレスも減っていくはずです。

怒りを上手に伝える技術

自分の怒りをコントロールし、環境を整えても、それでも怒りを感じるときは、いったいどすればいいのでしょうか。いつも怒らずに相手に伝えないでいると、いやなことばかり押し付けられる損な役まわりになってしまうかもしれません。そうならないために必要なのが、怒るべきときに適切な方法で相手に伝える技術であり、これこそがアンガーマネジメントの極意なのです。

怒ることの目的は、相手を傷つけたり、ストレスを発散したりすることではなく、相手にどうしてほしいのか自分の願望を伝えることです。それをスムーズにするためのポイントをいくつかあげてみましょう。

第一に、内容の正当性はもちろん、話に一貫性を持たせること。相手によって、時によって言うことが違っている人には、誰でも不信感を抱きますよね。第二は、感じたことをその場で率直に伝えることです。過去のことをほじくり返して「前から言おうと思っていたんだけど……」はNGワード。怒られる側は関係ないことを言われていると感じ、素直に話を聞けなくなってしまいます。

肝心なのは相手の心に響く言葉と態度

肝心なのは相手の心に響く言葉と態度

第三のポイントは、正しい言葉選び。「あなたは~だ」と決めつけたり、「~すべき」と押し付けたり、「いつも」「絶対」「必ず」等の大げさな言葉を使わずに正確な表現を心掛けることです。怒っていると、人はどうしても事実以上に強く表現してしまいがち。さらに、相手に伝える際にどのような考え方に基づいて表現するかも重要です。たとえば、「なんでこんなことが起きたのだろう?」、「どうしたらこの問題が解決できるの?」という言い方は、似ているようで考え方の志向が真逆です。前者は問題志向、後者は解決志向。原因を明らかにするとことは大切ですが、「なんで」には言葉の裏にどうしても責めるニュアンスが含まれているように感じませんか? 怒るときは、過去の原因よりも未来に向けた目標や理想に観点をおくほうが、相手の心にすっと入っていけるのです。

最後に、相手に伝えるときは穏やかな口調で話すこと。言葉選びも大切ですが、同じ言葉でも穏やかに言われるのと威圧的に言われるのとでは、まるで印象が違います。ですから、相手を威圧するような腕組み等はせず、腕を広げて相手を受け入れる印象のボディランゲージも効果的です。

さあ、アンガーマネジメントを味方につけて、みなさんの人生をよりよいものにしていきましょう。


企画・編集:株式会社エアリーライム ライター:泉名邦子

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