──INTERVIEW 宇宙からコーヒーへ。 自分の可能性の見つけ方  堀口珈琲COO 伊藤亮太さん 第1回

世界に広がるサードウェーブコーヒーの潮流。日本でも、オシャレでおいしいコーヒー専門店が各地で人気を集めています。中でも、スペシャルティコーヒーのフロントランナーとして注目されているのが、堀口珈琲です。元は街の小さなコーヒー屋さんだった同店を人気ブランドへと押し上げる原動力となったのが、宇宙開発事業団から転職した伊藤亮太COO。その異色の転身と、躍進の秘訣を探ります。

伊藤亮太さんプロフィール

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1968年千葉県銚子生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、宇宙開発事業団(NASDA※)に10年間勤務。2003年に堀口珈琲に入社し、2013年4月からCOO(最高執行責任者)。著書に『常識が変わる スペシャルティコーヒー入門』がある。

  • 現在の独立法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の母体となった機関の1つ。2003年に宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所が統合し、JAXAが発足した。

宇宙少年、アメリカでコーヒーと出会う。

──伊藤さんはコーヒー業界に入る前は、NASDAの職員だったそうですね。宇宙への興味は小さいときから?

もともと自然や宇宙に憧れがありました。中学生のときに天文学者で作家のカール・セーガンのベストセラー『COSMOS』を読んで感動し、将来は科学者になりたいなと思っていました。ところが高校の一時期、物理の成績が伸び悩んでしまって……。結局、科学者は断念して大学では国際政治学を学びました。

でも夢をあきらめ切れず、就職活動を始めるとき、NASDAのことを調べてみたら、文系大学卒でもオーケーとある。考えてみれば、安全保障や国際協力って、宇宙開発にも欠かせぬジャンルなんですよ。就職試験にも無事受かって、1992年、NASDAに入りました。

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──コーヒーとの出会いは、いつ頃、どんなきっかけでしたか?

実はコーヒーとのつきあいは古くて、両親が喫茶店を営んでいた関係で子供時代からコーヒーは身近な存在でした。でも、あまりおいしいと思ったことがなかったんです(笑)。

コーヒーの魅力に目覚めたのは、NASDAの米国駐在員として1997年から3年間、ワシントンD.C.に赴任していた時期です。街角のカフェとか、郊外のショッピングセンターに入っているカフェとか、どこに入ってもコーヒーがすごくおいしくて……。

そこでは、人々が新聞を広げながらゆったりとコーヒーブレイクを楽しんでいたり、おいしいコーヒーを介して人と人とが交流している。そんなカフェ空間の心地よさにも魅せられました。

「コーヒーは自分が思っていた以上に人生を豊かにしてくれる、いいものなんだ」とコーヒーの魅力を米国で再発見し、もっともっとコーヒーを追求してみたくなりました。

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(写真はイメージです)

東京に帰ってからも、コーヒーがうまいと評判の店をめぐっては、コーヒーを飲み歩きました。そんな中で「一番おいしい」と思ったのが、世田谷の堀口珈琲だったんです。2000年前後は、スペシャルティコーヒーというカルチャーが、日本のコーヒー業界に広まり始めた時代で、堀口珈琲はその草分け的存在。創業者の堀口俊英代表(現会長)の姿勢や、原料の品質へのこだわりにも感銘を受けました。

で、「今の仕事を辞めて弟子入りしたい」と面接を受けに行ったんです。堀口会長からは「せっかくの学歴や職歴がもったいないよ。やめとけ」と言われましたが(笑)

──何がそこまで背中を押したんですか?

ひと言で言えば、若かったから(笑)。 アメリカで暮らしていた時期、同じ年頃の連中が1つの場所に安住せず、リスクを取って新しい道にチャレンジする姿をたくさん見てきて、自分もそうありたいとインスパイアされたことが大きかったですね。当時の私は34歳。年齢的にも新しい世界に踏み出すなら今だ、と思いました。

宇宙開発で培った頭脳を存分に活かす

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──宇宙とコーヒーでは、頭を使う部分がずいぶんと違うんじゃないかと思うんですが、戸惑いや不安は感じませんでしたか?

それが、ちっとも不安じゃなかったんですよ。NASDAで培ったキャリアと能力は、コーヒーの道に進んでも必ず役に立つ。堀口珈琲の発展に貢献できる。そう思っていたからです。

具体的には、自分の語学力を活かして海外の原料生産者との関係性をより深める役割ができるんじゃないか、と。スペシャルティコーヒーの分野で成長していくためには海外とのコミュニケーションが欠かせないのに、当時は語学力の面で堀口を補佐できる者が社内にはいませんでしたから。

──在米勤務経験のある伊藤さんだからこその“強み”ですね。

もう一つ、前職で経験した情報システムの構築も役立ちました。「堀口珈琲」に入社してからすぐに私が手掛けたのが、ネットショップの刷新と、もろもろの社内システムの効率化と再構築でした。

──どうやったら、そんなに上手に頭の切り替えができたのでしょうか。ぜひ、秘訣を知りたいです。

う〜ん、なんだろう。まったくの異業種から来たことが、かえって良かったのかもしれません。コーヒー業界の従来の因習や常識に縛られていないぶん、足りてない部分や欠点が客観的に見える、というか……。しがらみもありませんから、良かれと思ったことをすぐに実行に移せたという面もあります。そんな考え方を許してくれた、堀口の度量の大きさもありがたかったですね。

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逆転の発想で“使える力”を伸ばす

──臆さずに考えをすぐ実行に移す、というのもアメリカ仕込みですか?

いや、個人の自由な発想と、ビジネスを成功に導く思考は、やはり違います。この先のビジネスシーンで、自分独自の“強み”を持って活躍するためには、何が必要で、何が足りないか。それを常に意識しながら、コーヒーの修業を続けましたね。いろいろな資格の勉強もしました。

──自分をいかに差別化するかということですね。どのような資格にチャレンジしたんですか?

実は、異業種、特に非営利部門からの転職ゆえに、私には決定的に足りてない部分がありました。例えば、信じられないでしょうが、私は「売掛金」という言葉を知らなかったんです(笑)。「営利企業で求められる知識が欠落しているんじゃまずいな」と痛感し、中小企業診断士という国家資格の勉強をしたこともあります。

実際の資格登録には至りませんでしたが、資格勉強のいいところって、その合格に向けて学習のモチベーションが上がり、網羅的かつ効率よく勉強ができるところです。

──逆転の発想がすごい! 資格を取るための勉強ではなく、勉強のモチベーションを高め、効率よく知識を得るために資格試験を利用したわけですね。

おっしゃる通りです。堀口をサポートするうえで知識が不足しているなと痛感した案件は、手当たり次第勉強しました。

──実際に取得された資格のうち、どの資格がビジネスに役立ちましたか?

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コーヒーの原料の品質を評価する技能者の資格でしょうかね。当時のSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が認定していた“カッピングジャッジ”という資格を2006年頃に取りました。自分で資格を取るだけでなく、そのインストラクターが来日して資格講座をする際は、私が通訳を務めたりもしました。

これはビジネスの現場で大いに役立ちましたね。例えば、ブラジル、中米、アフリカなど、生豆の現地調達先で、原料の品質を厳しく審査し、どの豆を購入するべきか、堀口に助言できるようになったからです。そんな感じで、実践的な知識と能力を身につけていきました。資格講座での通訳を通じて、コーヒー業界のさまざまな人たちともどんどん知り合えたのも、新参者の自分には大きかったです。

気が付けば「堀口珈琲」に入社してから10年が経過し、先輩たちはみんな独立して店を去り、自分がいちばん古株になっていました。COOという今の立場に就いたのは、2013年4月のことです。

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次回は、今の堀口珈琲の躍進を引き寄せたブランディングについて、特に、社員とのブレインストーミングによってブランドコンセプトを確立していったお話をお聞きします。


企画・編集:株式会社エアリーライム ライター:腰本文子 カメラ:岡本裕介

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