【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論Vol.1 為末大さん 第3回

長所を生かして、パフォーマンスを上げる(全3回)

第3回 自分らしさという思い込み、社会の常識から自由になる

第1回は、為末さんの現在の仕事のスタイルについて、第2回はパフォーマンスを上げる方法についてお話いただきました。どちらにも共通して大切なことは、「自分を知る」ということ。今回は「自分らしさ」ということについて伺います。

「自分らしさ」という思い込みの正体を知る

「自分らしく生きる」とは、誰にとっても普遍的なテーマの一つ。為末さんは、「長所と短所、どちらも自分らしさなのだから、受け止め方次第」と言います。

「僕は、実は決断することが得意ではなく、いろいろ考えすぎてしまってギリギリまで決められないんです。自分のことを“優柔不断な人間”と思っていたのですが、とある研究者の方と対談した時に、『為末さんは最後まで結論を出さないので、非常に優秀な科学者になる素質があると思いますよ』と言われました。“優柔不断な人”と、“最後まで決めつけない人”とでは、全然違いますよね(笑)」

為末さんは、この経験から、「自分が思う自分らしさに縛られなくてもいいのかもしれない」と考えるようになったそうです。

「自分らしさって、多分に願望だったり、こうあるべき、という思い込みが混同しているので、単純ではないんですよね。たとえば、“私は、人にズケズケものを言うのが好きじゃない”という人は、実は、自分の意見を素直に言えないことの裏返しだったりするわけです。イソップ童話に『すっぱいぶどう』という話があります。キツネが高い所にあるぶどうを食べたくてジャンプしたけれど、届かなくて食べられなかった。そうすると態度が一変して、『あのぶどうはすっぱくておいしくないんだ』と言い出す。手に入らないのなら、それを嫌なものとして遠ざけたいという心理、思考パターンがあるんですね。そういうメカニズムがあるということも知っておかないと、本当の自分はなかなか分からないのかもしれません」

限界の檻は自分の思考が作っている

限界の檻は自分の思考が作っている

思い込みや社会の常識は、時に「可能性を閉じ込めてしまう檻」になると為末さんは語ります。

「例えば、日本人アスリートの100メートル走では、1998年のバンコクアジア大会で、伊東浩司さんが10秒00という記録を出しました。その後18年間は“10秒の壁”という言葉が日本人の暗黙の了解のようなものでした。でも、その記録を1人が破ったら、次々と9秒台で走る選手が現れました。これは『日本人でも9秒台は可能なことなんだ』と世の認識が変わったこと、つまり社会心理的な要素が大きんじゃないかと思うんです。社会での“当たり前”が変わると、人間のパフォーマンスも変わる、ということがあるのではないでしょうか」

為末さんは、「限界とは何なのか」ということをずっと考えてきたそうです。

「多くの人は、自分の本来の限界のずっと手前を限界だと思っています。自分の能力を低く見積もってしまうんですね。どうせ無理、やっても無駄、と思った時点で、自分で自分の檻を作ってしまう。それを取り払うには、思考を変えるしかありません。誰しも伸び代があります。思い込みや社会の暗黙の了解にとらわれないこと、それが大切だと思いますね」

自由にしなやかに、生きるコツ

自由にしなやかに、生きるコツ
(写真:関 健作)

為末さんには、ご自身が現役時代や社会に出てから経験してきたこと、思うことを伝えるために、さまざまな場所でいろいろな発言をしています。現在、幼稚園に通うお子さんを持つ親として、子どもたちにも多くのことを伝えていきたいと考えています。

「とくに、一つのこともいろいろな捉え方があること、◯×ではない、長所も短所も君らしさだよということを伝えたいですね。比較的やさしく書いた子ども向けの絵本も作りましたが『無理なこともあるよね』とか、『真面目になりすぎちゃダメだよね』とか、きれいごとじゃない本音を伝えています」

テーマは「自由にしなやかに、生きるコツ」なのだとか。「自由にしなやかに」、まさに大人にも必要なことなのではないでしょうか。

「最近よく言われるダイバーシティ(多様性)というのは、たとえば、『これは自分だからこういう風に考えるけど、あの人だったらこんな風に考えるんだろうな』、そんな視点を持つことが基本だと思うんです。自分はこう考える、という一点張りでは、自分の考え方のクセや偏りもわからなくなってしまう。大人も子どもも、そういう視点や思考を持てれば、社会は変わっていくと思います」

時には小休止。対象物から離れる旅へ

時には小休止。対象物から離れる旅へ

為末さんは、時々仕事抜きの旅に出るそうです。生き先はブータンやラオスなどのアジア諸国が多いそう。

「常に渦中にいるとだんだん見えなくなるものがあるんですね。客観的に見直すために、 “仕事や日本という対象物”から定期的に、そして物理的に離れることを意識しています。どんなに忙しくても、休むとか、離れるとか、そういう行為は必要ですね。そのほうが後のパフォーマンスが上がる。それは実感しています」

例えば、怪我で練習を休んだ選手が、復帰後4カ月くらいでパフォーマンスが高くなるということがあるそうです。

「それは忘却効果というもので、つまり一定期間離れると、結局何が重要なのかという要点が絞れて、次に挑んだときに、シンプルになれる。それが良い結果を生むわけです」

最後に、今後の為末さんの今後の活動について伺いました。

「僕は好奇心が強くて、放っておくとどんどん散らかっちゃうんです。だから、自分がドキドキ、ワクワクするものだけを、やり続けていくという軸を大切にしたいですね。ドキドキしないものは、自分に関係のないものだって思えば、シンプルになれます。究極の目的は、人間を理解したいということ。今のインキュベーションオフィスでは、プロジェクトのスタートアップから、ずっとその後をフォローしながら、変化を観察することが僕の仕事です。プロジェクトとともに、どんな風に人が関わって、社会が変わっていくか。見て、考えて、フィードバックしていく活動を続けていこうと思います」

為末 大(ためすえ だい)プロフィール

  • 為末 大(ためすえ だい)
    1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初めてメダルを獲得。3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2019年10月現在)。
    現在はSports×Technologyに関するプロジェクトを行う(株式会社Deportare Partners)の代表、アジアのアスリートの育成・ネットワークを構築する(一般社団法人アスリートソサエティ)の代表理事を務める。
    主な著書に、『走る哲学』(扶桑社、2012年)、『諦める力』(プレジデント社、2013年)など多数。
    2019年10月に新刊となる初の絵本『生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば』(日本図書センター)発売。
    生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば


編集:株式会社エアリーライム ライター:菅野和子
カメラマン:木村和敬

歩数管理して、運動習慣を身につけよう!

Easiitアプリは、Fitbitやヘルスケア(iOSアプリ)と連携することで、かんたんに歩数を記録できます。
記録した歩数などは自動でスコアリングされ、ブレインパフォーマンスによい健康習慣を持続しているかを確認できます。
ダウンロードする

Easiitアプリについて詳しく知る

FEEDBACK 評価 / コメントする

RECOMMEND おすすめ記事

【連載】プロ・トレイルランナー鏑木毅さんvol.2「脳をだますことから始めるマインドセット」

【連載】プロ・トレイルランナー鏑木毅さんvol.…

COLUMN
by Eisai
5点中4.21839点の評価
87
戦国ヘルパー 〜もし武将がMCIになったら〜 2話

戦国ヘルパー 〜もし武将がMCIになったら〜 2話

COLUMN
by Eisai
5点中3.85922点の評価
206
「#30日生まれ変わりチャレンジ」第6話 デトックスチャレンジ

「#30日生まれ変わりチャレンジ」第6話 デトッ…

COLUMN
by Eisai
5点中3.96727点の評価
550
認知症とはどんなもの? 病気の原因と特徴

認知症とはどんなもの? 病気の原因と特徴

COLUMN
by Eisai
5点中4.19417点の評価
103
戦国ヘルパー5話

戦国ヘルパー 〜もし武将がMCIになったら〜 5話

COLUMN
by Eisai
5点中4.33333点の評価
18

PICK UP ピックアップ

認知症の家族との“いい時間”の過ごし方 「もうひとつの世界」を受け止めるために vol.2

認知症の家族との“いい時間”の過ごし方 vol.…

LIFE
by Eisai
5点中4.45455点の評価
11
戦国ヘルパー5話

戦国ヘルパー 〜もし武将がMCIになったら〜 5話

COLUMN
by Eisai
5点中4.33333点の評価
18

CATEGORY カテゴリ

  • CONDITION

    脳のコンディションをサポートする
    情報を掲載。

    一覧へ
  • FOOD

    健康的な食習慣に関する
    情報を掲載。

    一覧へ
  • FITNESS

    健康のための体づくりに関する
    情報を掲載。

    一覧へ
  • LIFE

    自分や身近な人の
    脳の健康ケアについて掲載。

    一覧へ
  • BRAIN PERFORMANCE

    脳のパフォーマンスを有効活用する
    情報を掲載。

    一覧へ
  • COLUMN

    脳の健康に関する特集を掲載。

    一覧へ

Easiit Mag利用規約

はじめに

エーザイ株式会社(以下、「当社」といいます)がEasiit IDを登録した会員(以下、「会員」といいます)向けに運営する、認知症を含むヘルスケア(運動、食事、睡眠など)等に関するコンテンツを提供するサービスEasiit Mag(以下、「当サービス」といいます)のご利用に当たっては、以下の注意事項を熟読いただき、この利用規約(以下、「当規約」といいます)に同意された場合にのみご利用ください。同意いただけない場合には、誠に申し訳ございませんがご利用をお控え下さい。なお、当サービスをご利用いただいた場合には、下記内容に同意いただいたものとさせていただきます。また、当規約については、当社の判断により変更する場合があります。当規約の変更後に会員が当サービスを利用した場合、当該会員は変更後の規約の内容に同意したものとします。

サービス内容

当サービスは、認知症を含むヘルスケア(運動、食事、睡眠など)等に関するニュース、レシピなどのコンテンツが読める会員向けサービスです。 Easiit IDを利用して、当サービスにログインすることにより、利用者は記事にコメント投稿、評価を行うことができます。

禁止行為

会員は本サービスを利用するにあたり、以下の各号に規定する行為・投稿をしてはならないものとします。

  • 犯罪行為に結びつく、もしくは助長する内容
  • 法令に反する内容
  • 営利宣伝目的を含む内容
  • 特定の政治的または宗教的主張を含む内容
  • 根拠なく当社または第三者の評判を毀損しまたは信用不安を引き起こすおそれのある内容
  • 当社または第三者の著作権、名誉、プライバシーその他の権利を侵害しまたはそのおそれのある内容
  • 差別的表現を含む内容
  • 低俗、有害、下品その他他人に嫌悪感を与える内容
  • 有害なプログラム、スクリプト等を書き込む行為
  • その他当社が不適切と判断する行為

マイル付与

当社は、Easiit Mile利用規約に従い、当社が定める方法により、本サービスの利用に応じてお客さまにマイルを付与することができるものとします。
当社は、会員に事前に通知することなく、マイル付与条件を新設、変更、終了することができるものとします。

以上

同意する