判断力は鍛えられる? できる人が実践する「インバスケット」の思考法

判断力は鍛えられる? できる人が実践する「インバスケット」の思考法

仕事や私生活において、私たちは常にさまざまな判断に迫られます。その判断がスムーズかつ的確であれば日々のパフォーマンスも上がりますが、自分の判断が正しかったのかどうか評価するのは難しいもの。

そんな「判断力」を測定する試験として「インバスケット」というものがあります。制限時間の中で多くの案件処理を行うビジネスシミュレーションゲームで、さまざまな企業の昇進試験や研修などで活用されています。

今回は、そんなインバスケットの教材を開発している株式会社インバスケット研究所の代表取締役・鳥原隆志さんに、「判断力」の定義や、判断力がない人の特徴、そして判断力を鍛える方法についてお話を伺いました。

<プロフィール>鳥原隆志さん

  • 鳥原隆志さん

    株式会社インバスケット研究所代表取締役。1972年生まれ。大手流通業にて精肉や家具、ワインなどさまざまな販売部門を経験。昇進試験の際にインバスケットに出会い、研究とトレーニングを開始。株式会社インバスケット研究所を設立し、日本のインバスケット第一人者として国内だけではなく海外でも活動。著書に『判断力の基礎』、『9%のトップエリートがやっている最強の「判断力」』など。

判断力は「そこに至るプロセス」も含まれるスキル

――そもそも「判断力」とは何でしょうか。

端的に言えば「決める」力です。ただし、ただ決めるだけではなく、そこに至るプロセスも含まれます。弊社で開発している「インバスケット」は、ビジネスパーソンの判断力をさまざまな側面から測定するビジネスシミュレーションゲームです。ゲームの中では10個の能力が問われるのですが、たとえば短時間でたくさんの仕事が押し寄せてきたときに、どれから手をつけるか取捨選択する力や、重要な局面で進むか留まるかを決断する力も判断力に含まれます。もっと言えば、その決断を相手に伝えることも判断力のひとつです。

――「決める」だけでなく、あらゆる能力の集合体が「判断力」ということですね。そのスキルをインバスケットではどのように測定するのでしょう。

インバスケットでは、結果ではなくその判断に至るプロセスを重視します。短時間でストレスのかかる環境下において、その人はどういう思考をもとにその判断に至ったのか。思考のプロセスや判断基準は人それぞれですが、そのプロセスに抜け漏れがないかを評価することはできるのです。

自分は判断力があると思っていた

自分は判断力があると思っていた

――ご自身でインバスケットにまつわる事業を立ち上げるなど、鳥原さんが今これほど判断力を重視するようになったのはなぜでしょうか。

正直に言えば、私自身に判断力がなかったからです。会社を設立する前は、大手小売企業でマネージャーをしていて、物事を決めたり、部下に指示を出したり、優先順位をつけるのは得意だという自信がありました。そんな折、インバスケットの試験について知りました。90分で25案件、自分が事業部長の立場になって、ビジネスの場に起こり得るいろんなケースの判断をしていくというゲームでした。内心楽勝だと思っていましたが、いざ解いてみると自分が得意だと思っていたことができておらず、衝撃を受けました。

――ゲームの結果によって自分のスキルレベルがわかったと。

リスクが高い案件は上司に丸投げをしていたり、前例がないときは部下に曖昧な指示を出していたりしていることに、自分の回答を見て気づきました。他人の意見に左右されやすい、物事を先延ばしにするといった癖もわかりました。

――それまで自分に自信を持てていたのは、最初におっしゃっていたような、後付けの評価でしかなかったということですね。

そうですね。これまでは、そもそもリスクがないもの、あるいはマニュアルや前例があるものに対して判断を下すことが多かったので、大きなトラブルに発展することもなく、「自分は判断することが得意だ」と思い込んでいただけなんですよね。

判断力がない人の特徴とは?

判断力がない人の特徴とは?

――判断力があるのかどうか、自分ではわからない人も多いと思います。何か基準になるものはありますか?

判断力がない人の中には、「判断ができない人」と「判断に失敗する人」の二通りがいます。判断ができない人には、「心の中では決めているけれど決断しきれない」という人が圧倒的に多い。一定のプロセスを辿って判断まで行き着いたけれど、本当にそれが正しいのか不安になってスタート地点に戻る、という風に堂々巡りをしてしまうのです。あとは、リスクを大きく捉えすぎて一歩を踏み出せなかったり、いろんなところから問題を見つけては考えすぎて、意思決定までたどり着かなかったりする人もいます。そういう自覚がある方々は、思考プロセスを見直せば判断ができるようになります。

――なるほど。では「判断に失敗する人」にはどういう特徴があるのでしょうか。

「判断に失敗する人=結果的に誤った判断をした人」という意味ではなく、判断に至るプロセスのどこかが欠けてしまっている、もしくは時間をかけすぎている人が当てはまります。たとえば、今決めなくていいことを衝動的に決めてしまったり、他人の意見に左右されたりする。あとは、他人への伝え方の曖昧さも特徴のひとつです。部下に「この企画を進めていいですか」と聞かれて、内心はやめておいた方がいいと思っているのに、「いいね、それ」ととりあえず言ってしまう。そうやって曖昧な伝え方をするというのも、判断に失敗する人の特徴です。

――聞いていると、当てはまることが多くて胸が痛いです……。

むしろそういう人の方が多いので、気にしすぎなくて大丈夫ですよ。これまでインバスケットで約2万人の回答を分析してきましたが、ほぼ完璧に判断のプロセスを辿られた方は3%とごくわずか。ところが、自分は判断力があると思っている方は、全体の8割を占めているというデータもあります。

――判断力を鍛えて後天的に伸ばすことは可能なのでしょうか。

もちろん可能です。判断力はセンスではなく、プロセスによって培われるものなので、自分に足りていない能力を改善するだけでも十分伸ばしていくことができると思います。

――能力を改善するために、最初にすべきことはなんですか?

まずは、ご自身の判断パターンを見つめ直すことから始めましょう。結果だけを見て自分の判断の良し悪しを評価しがちですが、そうではなく、判断に至るプロセスを一つ一つ振り返ってみる。インバスケットであれば、模擬試験を受けて改善されたかを見たり、他の人の回答と見比べたりするのもいいでしょう。インバスケットを受けない場合は、自分の判断プロセスを周りの人に伝えてみて、そこから返ってくる反応で自分の判断パターンを評価してみるといいと思います。

アフターコロナで大事なのは「劣後順位」による取捨選択

アフターコロナで大事なのは「劣後順位」による取捨選択

――コロナ禍によって、働き方や会社のあり方が大きく変わりました。今後「判断力」のあり方はどう変わっていくと思いますか?

ビジネスにおいて必要な判断力は、時代に左右されない普遍的な能力です。ただ、コロナ禍によって、判断できる人とできない人の差が大きく開いているように感じます。たとえば、これまでは職場の誰かが決めてくれたり、上司に依存したりしていた人も、リモートワークの普及などによって、自分で決めなければいけない場面が増えてしまった。また、インバスケット思考は「限られた時間でいい結果を生み出す」ということが本質的な部分なのですが、今の時代は、優先順位ではなく「劣後順位」が重要視されてきていると感じています。

――「劣後順位」とはなんですか?

「何をやらないのか」を決めることです。在宅勤務だと、やろうと思えばいくらでも仕事ができる。そうすると、自分がすべき仕事と不要な仕事を見極められない人は、自分の時間や家族を犠牲にしながら働き続けて、疲弊してしまうのです。最初こそリモートワークはもてはやされていましたが、最近では、どこで仕事の踏ん切りをつければいいのかと悩む声を多く聞きます。それまで当たり前にやってきた業務や依頼を“断る”順番を決めていかないといけません。

――やらなくていいことを洗い出す作業が必要なのですね。

判断の中でも一番難しいのが、不要なものを取捨選択することです。たとえば、本を買って家に帰ったら本棚がいっぱいだったので、一冊捨てなければならないとする。新しい本を選ぶのは簡単ですが、捨てる本を選ぶのは案外難しいですよね。今は、その「捨てる力」が求められる時代になっています。コロナ前に定例化していた打ち合わせや会議も、思い切ってやめてみたら実害がないということもあり得ますから。

――ある意味、今まで無駄だったことを捨てるチャンスでもあるわけですね。ただ、捨てることが難しい中で、私たちはどのように取捨選択の能力を身につければいいのでしょう。

なぜ捨てられないかというと、リスクを必要以上に大きく捉えすぎているからです。本で例えるなら、「いつか必要になるかもしれない」「捨てたことが家族にバレたらどうしよう」などと考える。そんなときは小さな段ボール箱を用意して、捨てたつもりでそこに入れ、1カ月置いておく。1カ月間段ボールから出さないのであれば捨てる。このようにリスクを最小化することで取捨選択ができるようになります。

――リスクを適切な大きさで捉えられるようになるんですね。

そうですね。私たちは日々、大なり小なりさまざまなことを判断しながら生きています。判断を誤らないためには、リスクを適正に見積もり、判断基準を作ることが重要です。そのことを頭の片隅においておくと、次第に不要なものを買うことが減り、本棚が本でいっぱいになるようなこと自体なくなります。日々のトレーニングを積み重ねることで、必ず何かしら、自身の中で変化は訪れると思います。


取材・文:園田もなか 編集:水上歩美(ノオト)

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