2019 年、WHO(世界保健機関)は、認知機能低下のリスク低減に向けた初めてのガイドラインを発表しました。同ガイドラインでは、生活習慣を改善するなどしてリスクを減らせば、認知機能の低下は予防できるとし、12の対策を紹介しています。その各項目について、生活への取り入れ方を提案します。

認知機能低下予防の12の対策

生活習慣、何を改善する?

脳のパフォーマンスを維持、向上させるために、まず4つの生活習慣を改善しましょう。

1. 週合計150分以上の有酸素運動を取り入れて

週合計150分以上の有酸素運動を取り入れて

長年にわたって運動をする習慣がある人は、そうでない人よりも認知機能が低下するリスクが低いといわれています(※1)。別の研究では、積極的に運動をしてきた人は、その効果がより期待できるとされています(※2)。

65歳以上の人に推奨される運動量の目安(※3)

  • 65歳以上の人は、週に合計150分以上の中強度の有酸素運動(ウオーキング、ジョギングなどうっすら汗ばむ程度のもの)、または週に合計75分以上の強度の高い活発な運動(ランニング、水泳のバタフライなどの激しい運動)を。
  • 有酸素運動は少なくとも10分以上続ける。
  • さらに効果を上げるには、中強度の有酸素運動を週に合計300分(毎日40分程度)に増やす、または週に1回150分の激しい強度の有酸素運動をプラスするとよい。
  • 週に2日以上、全身の主な筋肉を使った筋トレを。

  • 1 Gallaway et al.,2017; Hamer & Chida, 2009; Sofi et al.,2011; Stephen et al., 2017
  • 2 Hamer &Chida, 2009; Sofi et al., 2011
  • 3 WHO’s Global recommendations on physical activity forhealth (2010)

2.喫煙者は禁煙しましょう

喫煙者は禁煙しましょう

喫煙者は、非喫煙者に比べて1.5倍~2倍も認知機能が低下しやすいことがわかっています(※4)。とくにたばこ依存症は認知機能を低下させる(※5)だけでなく、高齢者の虚弱や作業能力などの障害(※6)、加齢に伴う状態にも関連しているとも指摘されています。禁煙は、うつ病、不安、ストレス、気分、生活の質などを改善するともいわれます(※7)。

喫煙者に推奨される禁煙の方法(※8)

  • 成功する禁煙計画のポイントは「STAR」
    1. 禁煙開始日を決める(Set)
    2. 友人、家族、同僚に禁煙することを伝える(Tell)
    3. これから始める禁煙に困難が待ち受けていることを予想しておく(Anticipate)
    4. 自分の周りからたばこ製品をなくす(Remove)。
  • 認知・行動療法(ものの受け取り方や考え方にはたらきかけ、気持ちを楽にする治療法)。
  • 薬物療法。禁断症状の緩和に用いる薬物は主に2 種類あり、一つはニコチン置換療法(NRT)で、もう一つは非ニコチン置換療法のための薬物。NRT にはニコチンガムやニコチンパッチなどもある。

  • 4 認知症疾患診療ガイドライン2017,「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会, p131, 2017, 医学書院
  • 5 Durazzo et al.,2014
  • 6 Amorim et al.,2014; Kojima et al., 2015
  • 7 Taylor et al.,2014
  • 8 Strengthening health systems for treating tobacco dependence in primary care, 2013

3.1日に 少なくとも400gの果物と野菜を

1日に 少なくとも400gの果物と野菜を

健康的な食事は、身体だけでなく脳の健康にも影響します。過去の研究では、日々の食事は、生活習慣病(※9,10)や認知機能(※11)と関係があることが明らかになっています。

認知機能低下のリスクとの関連が指摘されるのは、果物と野菜(※12)、魚(※13)の摂取量です。特に魚の消費量が多いほど、記憶力低下に効果があるといわれます(※14)。

また、オリーブオイルや季節の野菜と果物、ナッツ類、魚介類をふんだんに使い、赤ワインを適量摂取する「地中海食」を続けることで、軽度認知障害(MCI)のリスクは低下するともいわれます(※15)。

推奨される食生活

  • 果物、野菜、マメ科植物(レンズ豆、豆など)、ナッツ、全粒穀物(未処理のトウモロコシ、キビ、オート麦、小麦、玄米など)を摂る。
  • 1日に少なくとも400gの果物と野菜を摂る。
  • 脂質のうち、トランス脂肪酸の摂取量を減らす。目標摂取量は、総摂取エネルギーの1%未満。
  • 1日に2,000kcalを摂取している人では、吸収の早い単純糖質の摂取を5%未満に、脂肪の摂取を30%未満に抑える。脂肪の多い牛や豚などの動物性食品は抑え、食塩の摂取量を1日5g未満にするのが理想的。
  • ビタミンBやE、不飽和脂肪酸などのサプリメントの摂取は、認知症のリスクを下げる効果が確かめられていないため推奨しない。

  • 9 Diabetes Prevention Program Research Group, 2002; Tuomilehto et al., 2001
  • 10 Rees et al., 2013
  • 11 Swaminathan & Jicha, 2014
  • 12 Jiang et al., 2017; Wu et al., 2017
  • 13 Bakre et al., 2018; Zhang et al., 2016
  • 14 Samieri et al., 2018
  • 15  Singh et al., 2014; Wu & Sun, 2017

4.飲酒は適度な量にとどめましょう

飲酒は適度な量にとどめましょう

アルコールの過剰摂取は、認知機能の低下(※16)や、200以上の病気の直接的な原因となっています(※17)。なかでも、認知症および認知機能低下の危険因子になりうることは、広範なエビデンスが示唆しています(※18)。

推奨される飲酒習慣

  • アルコール使用障害(危険な飲酒をくりかえす症状)の場合は、医療機関でカウンセリングを受けることが効果的。
  • 軽度~中程度のアルコール摂取が実際に認知症および認知機能低下を防ぐと仮定することはできないという研究報告(※19)もある。予防の観点から、飲酒習慣のある人は飲酒量を減らす、または断酒することを推奨する。

  • 16 WHO、2014
  • 17 WHO, 1992; WHO 2019a
  • 18 Langballe et al., 2015; Sachdeva et al., 2016; Zhou et al., 2014
  • 19 Beydoun et al., 2014; Hersi et al., 2017; Ilomaki et al., 2015; Lafortune et al., 2016; Piazza-Gardner et al., 2013; Xu et al., 2017

特に管理したい心身の健康

身体の健康と精神的な健康、脳の健康は、強く結びついています。脳のパフォーマンスを維持、向上させるため、特に気をつけて管理したい5項目を紹介します。

5. 肥満を防ぐため体重管理を

肥満を防ぐため体重管理を

一般的に、肥満度はBMI(Body Mass Index)を用いて示されます。BMIは[体重(kg)]÷[身長(m)2])で算出でき、その値が25以上の人が「肥満」と定義づけられています。

肥満と認知障害(※20) は密接に関係していて、特に中年期に認知症機能低下のリスクを高めるといわれています(※21)。

また肥満の人が体重を減らすと、認知機能障害の病因に関連するさまざまな代謝因子(グルコース)の改善につながり、認知症のリスクを減らすことが指摘されています(※22)。ただし、過剰な減量、低体重は危険です。

肥満の改善に推奨される行動

  • 太りすぎの人は、バランスの取れた食事で体重を減らす。
  • 食事中の炭水化物は、GI{(グリセミック指数=血糖値上昇の度合い)の低い食品を選ぶ。白米やパンよりも、豆、レンズ豆、オートミールなどがよい。
  • 座りがちな行動を減らし、ウオーキングなど身体能力に適した定期的な毎日の身体活動をする。

  • 20 Albanese et al., 2017
  • 21 Bennett et al., 2009
  • 22 Guidelines for primary health care in low-resource settings,2012

6.減塩をはじめ、高血圧予防を

減塩をはじめ、高血圧予防を

中年期(40~64歳)の高血圧は、高齢期(65歳以上)で認知機能が低下する危険因子となります(※23,24)。

高血圧予防で特に注意したいのは、食塩の摂り過ぎです。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、食塩摂取量の上限は成人男性で8g未満、成人女性で7g未満、高血圧予防・治療には1日6g以下が推奨されています(※25)。

高血圧の改善に推奨される行動、治療(※26)

  • 高血圧は、健康的な食事を取り、適正な体重を維持し、充分な量の運動をするなど、生活習慣を改善することで予防できる。
  • 適切な治療を。降圧薬を利用して、血圧をコントロールすることが重要。

  • 23 Elias MF, et al Hypertension. 2012:60(2):260?26
  • 24 Musini et al., 2009
  • 25 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)
  • 26 HEARTS Technical package for cardiovascular disease management in primary health care: evidence-based treatment protocols

7.血糖コントロールで高血糖の改善を

血糖コントロールで高血糖の改善を

詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、糖尿病の人が血糖コントロールを適切に行わずにいると、認知機能の低下リスクが上昇することが報告されています(※27)。また、血糖コントロールが悪いことと、認知機能の低下とは、関連があるともいわれます(※28)。

糖尿病の改善に推奨される行動、治療(※29)

  • 血糖コントロールの改善。高コレステロール、高血圧治療と併せて行えば、認知症のリスクが低下する可能性がある。
  • (1型糖尿病の場合)毎日のインスリン注射。
  • (2型糖尿病の場合)血糖コントロール目標が食事の変更、健康的な体重と定期的な身体活動で達成されていない場合は、2型糖尿病の経口血糖降下薬。

  • 27 Luchsinger, 2010; Prince et al., 2014; Profenno et al., 2010
  • 28 Yaffe et al., 2012
  • 29 Package of essential NCD interventions for primary health care: cancer, diabetes, heart disease and stroke, chronic respiratory disease,2010

8.脂質異常(高脂血症)をコントロールしよう

脂質異常(高脂血症)をコントロールしよう

脂質異常症は、血液中のLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が増えすぎる病気です。

血液中のコレステロール濃度が上がると、心筋梗塞や動脈硬化など心血管疾患のリスクを呼ぶ要因になるといわれます。世界の虚血性心疾患の3分の1は脂質異常症に起因しており、年間260万人が死亡しています(※30)。

1970 年代半ばから、血中コレステロール値の上昇は、認知機能低下のリスクにつながる可能性があるという指摘がありました(※31)。それ以来、多くの疫学的研究により、高血清コレステロール値と認知機能の低下は密接な関係があるとされています(※32)。

脂質異常改善のために推奨される行動、治療

  • 薬剤を用いた治療により、脂質異常症のコントロールをする。
  • 生活習慣を改善して、脂質異常症を抑制する。

  • 30 WHO, 2019b
  • 31 Richardson et al., 2000
  • 32 Kivipelto et al., 2002; Solomon et al., 2007; Whitmer et al., 2005

9.こころの健康を維持するため、まずは休養を

こころの健康を維持するため、まずは休養を

うつ病と認知機能低下および認知症を結び付けるエビデンスは、多く存在します。2014年には、32の研究を組み合わせ、うつ病が認知機能低下のリスクに及ぼす影響を調べたメタ分析で、うつ病の存在が認知機能低下のリスクをほぼ2倍にしたと報告されました(※34)。

別の研究では、うつ病は認知症の前触れであり、同時に認知障害が高齢者のうつ病の主な症状になる可能性も示唆されています(※35)。

こころの健康を維持するには、まずはしっかりと休養を取ることが大切です。体を休めることで心身の疲労が回復し、ストレス解消効果も期待できます。休日には、意識的にリラックスできる時間を作ったり、仕事を忘れて趣味やスポーツ、ボランティア活動を楽しむ「積極的休養」を取ったりするよう心がけましょう。

こころの健康を維持するために推奨される行動、治療

  • 病気、疾患について理解を深める「心理教育」。必要に応じて、本人だけでなくその家族も行うとよい。
  • 現在のストレス要因への対処を行う。
  • 社会のネットワークに参加する。
  • 抗うつ薬の服用をする(併用や副作用には注意)。

  • 34 Prince et al., 2014
  • 35 Camus et al., 2004; Jorm, 2001; Kales et al., 2005; Schweitzer et al., 200

10.コミュニケーションで聴力を活性化させましょう

コミュニケーションで聴力を活性化させましょう

聴覚障害は、聴力が低下するだけでなく、社会的および感情的な幸福を減退させることにもつながります。耳の聞こえが悪くなると、他の人とコミュニケーションをとる能力に影響を与え、その結果、欲求不満や孤立感、孤独感が引き起こされるのです(※36)。

英国の医学誌『ランセット』委員会は、難聴は認知機能低下のリスクをほぼ2倍にすると発表しています(※37)。

聴力低下を防ぐために推奨される行動(※38)

  • 聴力、聴覚のリハビリテーションのために、アウトリーチ(社会活動)などを通じて、コミュニケーションをはかる。
  • 補聴器は、聴力の低下を最小限に抑え、毎日の機能を改善するため、難聴の高齢者には適している。

  • 36 Wilson et al., 2017
  • 37-1 Ciorba et al., 2012
  • 37-2 Livingston et al., 2017
  • 38 WHO Guidelines on Integrated Care for Older People (ICOPE),2017

日常生活に取り入れたい活動

心身の健康に気遣うだけでなく、日常の過ごし方から認知機能の低下を防ぐこともできます。脳のパフォーマンスを維持、向上させるため、2つの活動を意識しましょう。

11.日常的に「考える、記憶する、判断する」の練習を

日常的に「考える、記憶する、判断する」の練習を

認知症は、発症前から認知機能(考える、記憶する、判断するなどの知的能力)が下がる傾向にあります。

最近の研究では、若いころから頭を使って認知機能の予備力(認知予備力)を蓄えることが、認知症や認知機能低下のリスクを軽減すると指摘されています(※39)。また、普段から考える、記憶する、判断するといった「認知活動」を積み重ねておくと、認知予備力が刺激され、急速な認知低下を防げるといわれます(※40)。

認知活動は、認知刺激療法、認知訓練といった治療、リハビリテーションを通じても増やすことができます。

日常生活に取り入れたい知的活動

  • 書籍や新聞、雑誌などを読む
  • ゲームをする(ボードゲーム、将棋・囲碁、麻雀など)
  • 映画や演劇を鑑賞する
  • 歌う(コーラス、カラオケなど)
  • 日常生活で頭を使う(買い物の際に金額を計算する、食事の献立を考えるなど)
  • デュアルタスク(二重課題)を行う(ウオーキングや簡単なステップなどの軽い運動をしながら、しりとりや計算などを同時に行う)
  • アートの制作
  • 楽器の演奏
  • 語学の勉強、習得

  • 39 Stern, 2012
  • 40 Stern & Munn, 2010
  • テキストテキストテキスト

12.積極的に社会と関わろう

積極的に社会と関わろう

社会に関わることは、幸福な暮らしをするために生涯を通して重要な要素の一つです(※41)。とくに高齢者の場合、社会から切り離されることが認知障害および認知症のリスクを高めることが示唆されています(※42)。

また、社会参加が減ったり、社会的接触の頻度が低下したり、孤独感を覚えたりすることが、認知症発症率を上げる要因になることを示す研究もあります(※43)。

引きこもり生活を防ぐ5原則

  • 同じ趣味を持つ友人を見つける。
  • 同窓会やOB会にはできるだけ出席する。
  • 細く長く続けられる仕事やボランティアを見つける。
  • 住んでいる地域の活動に参加してみる。
  • 常識の範囲内で男女の交流を大切にする。

  • 41 Cherry et al., 2011
  • 42 Fratiglioni et al., 2004
  • 43 Kuiper et al., 2015


出典:相談e-65、のうKNOW

編集:有馬ゆえ、水上歩美(ノオト)

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