【連載】プロ・トレイルランナー鏑木毅さんvol.3「仲間と高みを目指すときのマインドセット」

40歳で世界最高峰のトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」で3位入賞という日本人初の快挙を成し遂げた鏑木毅さん。43歳の時にUTMBにひと区切りつけますが、2019年、50歳で再挑戦し、完走を果たしました。年齢を考えれば無謀とも思える超人レースに鏑木さんが再び挑むことができた背景には、幾多の葛藤の末に身につけた思考のコントロール法があります。第3回では、マインドセットにおける「集団の力」についてお聞きします。

鏑木毅さんプロフィール

  • 鏑木毅
    鏑木毅(ぶらき・つよし)
    1968年、群馬県生まれ。2009年世界最高峰のトレイルランニングレース「UTMB」で世界3位に入賞。2019年、50歳でUTMBに再挑戦し、見事完走を果たす。現在は競技者を続けながら講演会や講習会を開催し、国内のトレイルランニングの普及にも力を注ぐ。著書に『アルプスを越えろ!激走100マイルー世界一過酷なトレイルラン』(新潮社、2013年)、『50歳ゼロからの世界挑戦 MINDSET-マインドセット』(三栄、2019年)など多数。

熱っぽい集団の中で、自分の限界値を引き上げる

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――鏑木さんは、48歳の時に50歳でのUTMBに再挑戦を決意しされました。再挑戦に当たっては、ご自身が主催する「チーム100マイル」の存在が大きかったとお聞きしています。

そうですね。トレイルランニングは欧米では大きな市場を持つ競技ですが、日本でも競技人口が20万人、潜在人口は70万人と、徐々に人気が高まってきています。『チーム100マイル』は、ウルトラトレイルレースで活躍できる人を育成したいという思いがあって結成しました。

チームには選手を目指している人もいれば、趣味として参加している人もいますが、全員に共通しているのは、エネルギーやパッションが強くて、高い意識を持った人たちだということです。自分で自分をしっかりマネジメントして、プロ選手以上に真面目に熱心にトレーニングに取り組んでいます。指導者の立場ではありますが、私のほうが彼らから力をもらい、意識を高めてもらっているんです。

――集団の中でトレーニングすることで、鏑木さんご自身がいい刺激を受け、モチベーションを維持することができたのですね。

集団の効用というのはとても大きいものです。ただ、当然ですが集団であれば何でもいいということではなくて、大事なのはそこが自分の目的やレベルに合った集団かどうか。どんなに志を高く持っている人でも、だらっとした士気の低い集団の中にいたら、そっちに引っ張られて「これくらいでいいよね」という気持ちになってしまいます。それは本当にもったいない。

少しでも上を目指したいという気持ちがあるなら、自分も知らなかった自分を引き出し、引き上げてくれる、高揚感が感じられる、そんな集団に身を置いてほしいですね。

「ここにいれば自分は安心して全力を尽くせる」場なのかどうか、嗅覚を働かせてください。そういう意味では『チーム100マイル』は理想的な集団だと思っています。


ポジティブ思考へと導いてくれる集団の力

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――いい集団に属することで、具体的にはどのような効果が得られるのでしょうか?

トップクラスの選手であっても、完璧な自己管理ができる人はほんのひと握りです。モチベーションを維持し続けることは本当に難しく、多くの人はどこかのタイミングでモチベーションを下げてしまって、立て直しに時間がかかったという苦い経験があるはずです。

そんな時には、自分からエネルギッシュでパッションが強い人たちと接する機会を持つことでエネルギーを分けてもらえるというか、自然と気分が上がり、ポジティブ思考へと導きやすくなります。

――トレイルランニングのように限界に挑戦する競技だと、なおさら励まし合う仲間が必要なのかもしれませんね。

そうですね。自分の「限界値」を超えるためにも、仲間はとても大切な存在です。例えば、チームに入った時に同じくらいのレベルの人たちがいたとします。日々練習をしていくうちに、必ず、ある時点でそのレベルからポンと抜ける人が出てくるんですよ。そうすると、残った人たちは、最初は同じレベルだったのに、なぜ差がついてしまったのかと疑問を持ちます。その理由を一生懸命考えて、気づいたことを行動に移してみる。そんな中で、自然と自分自身もレベルアップしていく。一人でやっていると、なかなか見えない部分です。

――そういえば、学校の体育でも、誰かが高い跳び箱をクリアすると、続々と飛べる子が出てくるということがありました(笑)。競争心もあったと思いますが、飛べるイメージが持てたというのも大きかったような気がします。

そうですよね。お互いに追いつき、追い越され、切磋琢磨していくうちに個々のレベルがどんどん上がっていく。それがチームに属する最大のメリットです。特にスポーツの場合、明確に個々の実力が比較しやすい。これは仕事ではなかなか実感できないことだと思います。

「頑張れば自分もそこまでいける」という伸び代がリアリティを持って感じられることも、モチベーションにつながるんですね。

――「自分の限界は自分が決める」とも言いますが、本当の限界もあると思います。そこはどうやって見分けるのですか。

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人は「限界値」を自分で設定してしまいがちなのですが、実際にはそれ以上の能力を持っている人がほとんどだというのが、私の実感です。

それを前提にして、いつも『チーム100マイル』のみんなに言っているのは、「無理していい無理」なのか「無理してはダメな無理」なのかをきちんと判断する力を持ってほしいということです。怪我や病気、疲労状態が激しい時に無理をするのはダメですが、もっとできるのに自分で限界をつくっている場合は、無理をすることも必要です。

一人でトレーニングをしていると、もっと無理していい時でも止めてしまいがちですが、集団の中にいて、チームメイトから「もう少し、頑張ってみよう!」と声をかけられ、背中を押されることで、自然と前に進むことができ、少しずつ限界値を引き上げていくことができるんです。

次回は、チームにおけるリーダーの役割と、独りで試合に向かう際の気持ちの持ち方についてうかがいます。


編集:株式会社エアリーライム ライター:塚本佳子 カメラ:岡本裕介(インタビュー)

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