──INTERVIEW ブランディングで、無形の思いを「新しいカタチ」に 堀口珈琲COO 伊藤亮太さん 第2回

世界に広がるサードウェーブコーヒーの潮流。日本でも、オシャレでおいしいコーヒー専門店が各地で人気を集めています。中でも、スペシャルティコーヒーのフロントランナーとして注目されているのが、堀口珈琲です。元は街の小さなコーヒー屋さんだった同店を人気ブランドへと押し上げる原動力となったのが、宇宙開発事業団から転職した伊藤亮太COO。今回は、伊藤さんが堀口珈琲の“ブランディング”に取り組んだ時のお話です。企業価値を一から問い直す作業は、思考の整理と気づきの連続だったそう。

伊藤亮太さんプロフィール

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1968年千葉県銚子生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、宇宙開発事業団(NASDA※)に10年間勤務。2003年に堀口珈琲に入社し、2013年4月からCOO(最高執行責任者)。著書に『常識が変わる スペシャルティコーヒー入門』がある。

  • 現在の独立法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の母体となった機関の1つ。2003年に宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所が統合し、JAXAが発足した。

社内の頭脳を結集、ブランディングにかけた1年

──ここで、あらためてスペシャルティコーヒーについて教えてください。一般のコーヒーとは何が違うのですか?

「スペシャルティコーヒー」という言葉自体は比較的古く、1970年代半ばぐらいからアメリカで使われていましたが、実は世界共通の“定義”というものはないんです。

“specialty”という言葉には、「品質が非常に高いこと」「特別な特徴、特異性により区別されるもの」「消費者にとって価格以外の魅力があるもの」といった意味がありますから、基本的には「商品の品質やはっきりした特徴において一般のコーヒーと区別される、特別なコーヒー」と理解してくださっていいと思います。

──なるほど。そのスペシャルティコーヒーが日本の市場にも普及し始めていた時期だったのですね。

はい。日本におけるスペシャルティコーヒーの先駆者という堀口珈琲の立ち位置をもう一度明確にしたい。それと同時に、スペシャルティコーヒーの市場がせっかく拡大してきている今、これまで高品質のコーヒーをあまり知らずにきた、新規のお客様を開拓するチャンスも到来していると感じていました。

新規のお客様にアプローチするにはどうしたらいいのだろう?と考えていたのは私だけではありません。「今までは『おいしいから買ってくれる』だったけど、それだけじゃなく、『買ってみたいな』と思わせる、何か別のきっかけを与える必要があるよね。それには商品パッケージのデザインなど見た目も重要なのではないか……。」そういった意見も社内から上がってきていました。お客様と直に接する現場の者のだからこそ、販売に関する危機感など、肌で感じていたのだと思います。

デザインのリニューアルを糸口に、思索を深める

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──デザインという“カタチ”から入ったのですね。そこからブランディングという“思考”の段階へと、どうやってステップアップされたのでしょうか。

候補に選んだ複数のデザイン会社の1つが、たまたま「経営者と対話を重ねながら企業の価値をブランドとしてデザインしていく」という考え方の会社だったのです。話を聞いているうちに、「デザインとはそんなにも深く企業理念と結びついているものなんだ」という、新鮮な驚きと“気づき”がありました。

社内会議でも「我が社に不足していたのはこれだ。個別のデザインじゃなく、全体としてのブランドを確立し伝達することが、これからの時代には求められるのではないか」と意見がまとまり、ブランディングを得意とするデザイン会社と契約に踏み切りました。

ディスカッションで思考を整理し、言語化を図る

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現在の堀口珈琲狛江店

──堀口珈琲にとって、大きなターニングポイントだったわけですね。

でも、そこからが大変でした。2012年から弊社の幹部社員がデザイナーさんと膝を突き合わせて、1年間、弊社の商品のコンセプトについてじっくり話し合いを進めていきました。

──え、1年も? ある程度の打ち合わせをしたら、あとはデザイン会社がデザイン案をポンと提示してくれるものだと思っていました。

そうならどんなに楽だったか(笑)。 契約したデザイン会社のやり方は、我々がまだうまく明確化できていない弊社独自のブランド価値(暗黙知)を自ら掘り起せるように、問いかけをする。それに対して我々は、社内で議論を重ねながら、自分たちの考えや思いを「ブランドコンセプト」や「ブランドステイトメント」として言語化して共有していく(形式知)。初めの3カ月近くはそんな作業の繰り返しでした。毎回、相当力の入った侃々諤々のディスカッションになりました。

そのうえでブランドをグラフィックなどのデザインとして表現していくという流れで、堀口珈琲の現在のロゴマークもその過程で作られたものです。

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HORIGUCHI COFFEEの頭文字「H」を格調高く表現したロゴマーク。よく見るとHの中にコーヒー豆のデザインが施されている。デザイン:エイトブランディングデザイン株式会社

──自らの思考を言語化して、形式知として社内で共有する。そういったブレインストーミングの積み重ねが、ブランディングの礎となるのですね。ほかには、どのような試行錯誤がありましたか?

デザインと同時進行で取り組んだのが、ブレンドだけで20種類以上と、長年の間に乱立してしまったコーヒー豆商品を整理することでした。コーヒーの場合、一般的に「ブレンド」というと、素材となる個別の銘柄の欠点を補うためにするという側面があります。このため、ブレンドは個々には勝負できない低品質な銘柄の混ぜ合わせと認識され、個別銘柄(ストレート)のコーヒーよりも低く見られてきました。でも、弊社の考え方はその逆で、高品質な豆を使い、それぞれの長所を生かし、相乗効果で味わいを強め、まったく新しい風味を作る。その姿勢を貫いてブレンドを作ってきたという自負があります。ですから、高品質なブレンドの種類が多いほど、お客様のニーズに応えられる、と信じてやってきました。

ところが、ブランディングのプロから見ると、種類が多いのはいいことばかりじゃない。「お客様に違いが分かりにくく、むしろ弊害になっている」と。

そこで、ここでも議論を重ねに重ねて「風味」と「ロースト」の2軸でチャート化し、20種類以上あったブレンドを9種類にまで絞り込みました。この過程でも社内からブレンドの名称を公募するなどして、衆知を集めることに努めました。

堀口珈琲のブランドとは何かということについても、我々の思考が整理されて行ったのです。実に貴重な体験ができた1年間でした。

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──お客様の反応はいかがでしたか?

新しいお客様が増えていきました。同時に常連さんからは、ブレンドをリニューアルしたときに、「1番から9番まで順に飲んでみようかな」と言っていただいたりして、おおむねポジティブな反応でしたね。

ブランディングを通して、既存の顧客と新規の顧客、その両方に対して、弊社が生み出す価値を伝えやすくなったと思っています。

次回は、多忙な伊藤さんの時間術を中心にうかがいます。


企画・編集:株式会社エアリーライム ライター:腰本文子 カメラ:岡本裕介

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