【INTERVIEW】西澤明洋さんクリエイターの頭の中身に興味津々!Vol.3 コンセプトをデザインしよう

クリエイターって、一握りの“とびきりセンスのいい人たち”のことだと思っていませんか? 「すべての人はクリエイター」と言うのは、企業のブランディングデザインを専門とする西澤明洋さん。クリエイターは、どうやってすぐれたカタチや独創的なアイディアを生み出すのでしょうか? 最終回である第3回は多くの人が頭を悩ませている「コンセプト」のまとめ方についてのお話です。
――前回、クリエイティブな発想は前提条件を疑ってみることから始まるというお話をお聞きしました。今回は、コンセプトのつくり方について教えてください。
新商品の企画会議などで、コンセプトをどうするか話し合ったことのある人は多いと思います。これ、なかなか難しい作業ですよね。
大辞林で「コンセプト」をひくと、「①概念 ②意図。構想。テーマ」とあります。ちょっと漠然としていますね。僕は、コンセプトとは「目的」だと考えています。「何のために?」という問いへの答えになるものですね。
――なるほど、目的と捉えるほうが考えやすそうですね。
「何のために?」にフォーカスすることはとても大事なことです。 僕もサラリーマン時代には大手電機メーカーで働いていましたが、日々納期や予算に追われて、メーカーが本来果たすべき「商品で社会や生活を豊かにする」という目的をほとんど見失いかけていました。みなさんも、組織を維持していくことが働く目的になってしまっている、なんてことはないでしょうか?
――いつの間にか、手段が目的とすり替わってしまうのですね。
サービス業における「接客」ひとつを取ってみても、お客様が気持ちいいと感じる接客方法はさまざまです。コンビニエンスストアでは、AIによる顔認証の技術を使って、手ぶらで買い物ができるサービスが実現しつつありますよね。あれは、どれだけお客様の煩わしさを排除できるかという目的の追求でもあるわけです。でも、某世界的テーマパークがそうなったら、超つまらない。彼らはお客様にかかわりまくってきます。誕生日シールを貼っていたら、「おめでとう!!!」って何回も言ってくれる(笑)。これがエンターテインメント。目的が全く違うわけです。
何が正解かは、コンセプト次第。だから、初めに目的をしっかり見定めることが非常に大事です。そこをちゃんと押さえていれば、最適なシナリオや商品設計、デザインまで、ブレずにつくっていくことができます。
――目的の見つけ方にも建築的な考え方が応用できるのでしょうか?
はい。建築物には「構造」がありますね。柱や梁を組み、屋根をかけ、壁を立てればとりあえず空間になります。しかし、目的のない空間のままではクリエイティブとは言えません。「目的」をいかに表現するかが重要なのです。
そこで建築では、その目的を表現する要として「コンセプトデザイン」というプロセスがあります。表現の前に、コンセプトの良し悪しが問われるわけです。そして、そのコンセプトがどのように細部まで表現されているのかも問われます。
例えば、ある企業が「自社ビルを建てる」とします。そのとき、なぜ自社ビルが必要なのか、どのような目的でつくるのか、その「課題の在り方」を第一段階のコンセプトとしてつくります。そして第二段階は、第一段階の課題を、どのような表現によって「解く」のかという表現上のコンセプトを練ります。ビルの設計そのものですね。
第一段階=課題の在り方 第二段階=課題の解き方
というプロセスを踏むのです。課題の設定から表現の解き方までの一貫性、すなわち「コンセプトデザイン」自体に評価の主眼が置かれるのは、建築ならではと思います。
エイトブランディングデザインのロゴマークは「輪違い」という「共創」の意味をもつ家紋をアレンジしたデザイン。経営者と二人三脚で会社全体のデザインを行うというメッセージがある。
――コンセプトを2段階に分けてつくれば、頭も整理できそうです。
僕は、この建築家の思考プロセスをブランディングデザインに応用しています。
第一段階で「ブランドコンセプト」としてその企業の方向性を設定し、第二段階では「デザインコンセプト」をつくり出して、表現として解いていくという手法です。
ブランドコンセプトは、企業にとって差異化を生み出す戦略であり、デザインコンセプトは、その戦略を表現し、展開するためのルールのようなもの。ブランディングデザインだけでなく、多くのビジネスに応用できると思います。
――コンセプトワークのようなクリエイティブな作業を行う際に「デザイン・シンキング」を取り入れることが注目されていますが、西澤さんも活用されていますか?
付箋にアイディアを書き出して壁にペタペタと貼って整理していくといったワークショップスタイルが人気ですね。確かにあれはデザイン業界ではよく使う手法で、これまでデザインを学んでこなかった人には新鮮かもしれません。でも、注意が必要です。
アイディアを出すだけなら訓練次第で誰でもできるようになりますが、1回目でお話した「感じるクリエイティブ」と一緒で、「表面をどうお化粧するか」という話に陥りやすいのです。課題を根本的に解決するような何かを発見するためには、もっともっと根っこを押さえた新しい視点が必要です。
――前提条件を疑い、未条件を加えるような視点ですね。
いいですね(笑)。例えばお菓子の新商品のコンセプトを考えているとしましょう。そのお菓子の根っこまでたどるというのは、「そのお菓子を新商品として出すことが、会社にとってどんな意味があるのか?」というような“そもそも”を考える作業です。もしかしたら、新商品を連発する必要なんてないのかもしれない。必要性があるとしても、その商品にどんな意味を持たせてお菓子市場に投入するのか。会社の強みを活かせるのか。いかに差別化するのか。値段はどうなのか…。問題の根っこまで当たったその先に、コンセプト=目的が見えてくるのです。
構造そのものをいじってみる
――そこまで考えれば、クリエイティブなコンセプトが見えてくるのでしょうか?
そこで、さっきの「構造」の話につながります。今までの話は全部つながっています。良いクリエイションをしたいのなら、その場で感じていることだけで話し合っていてはダメで、まずは「与件の整理」をする。その与件を一度疑ってみる。時間とトレンドという文脈で読んでみる。
そこまでやったら、今まであった柱や梁といった枠組みの一部をすっ飛ばすような構造のリストラクチャができないか考えてみるのです。
その新しい構造をつくるときに必要となるのが「コンセプト」なんです。なんとなく奇をてらって何かをなくしたり変えたりするのではなくて、ちゃんとコンセプトという筋を通しながら構造をいじるんです。
一番いいのは、筋そのものが他よりはちょっと違うような新しさとか、新規性があること。それが社会を更新させていくと思っています。
人間とは、基本的に保守的です。昔からある最適化されたものを守ろうとします。けれども、勇気をもってその最適化されたものの軸をちょっとだけ変えてあげる。それによって自分たちも、社会も恩恵を受ける。そういう意識が必要だと思います。それがクリエイションですね。そうやって、人間はずっとクリエイションし続けているのです。そうじゃなければ、今もずっと石器時代のままだと思うんですよ。
大阪国際大和田幼稚園のサインデザインを担当。遊びと空間を通して子どもたちの知的教育を育むことを目的に、「まる・さんかく・しかく」をベースに、組み合わせの違いで様々な形に変化するサインを園全体に展開した。
企画・編集:株式会社エアリーライム ライター:山田恵子
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