【連載】うちの親が認知症? ~まさかに備えて「介護」を学ぶ~vol.3

超高齢化社会に突入した日本では、「親の介護」は誰もが避けて通れない問題となりました。 「うちの親は、健康に気をつけているから大丈夫」と思っていても、病気や事故やなどに巻き込まれることも。中でも、認知症は近年増加の一途をたどっており、介護を担う家族の負担は深刻です。そこで、予期せぬ事態に慌てないための心構えやノウハウを、介護アドバイザーに教えてもらいます。

—- 教えてくれる人 横井孝治(よこい・こうじ)さん

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株式会社コミュニケーター代表。介護アドバイザー。2001年、離れて暮らす両親に相次いで介護が必要になったことを機に、介護について学ぶことに。現在は介護家族向けの情報サイト「親ケア.com」、介護家族向けの情報管理ツール「おやろぐ」などを運営するとともに、介護アドバイザーとして、「仕事と介護の両立」をテーマに多くの企業や団体で年間100件ほどのセミナーを行う。「おやろぐ」では、認知症かんたんチェック(https://www.oya-log.com/Top/info_dementiacheck)も公開している。新聞や雑誌などへの寄稿、コメントも多数。主な著書として「親ケア奮闘記―がんばれ、母さん。たのむよ、父さん。」「40代から備える親の介護&自分の介護」など。

第3回 認知症の疑いがあるのに病院に行きたがらない親。その心理と対策とは?

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「65歳以上の4人に1人が認知症はまたその予備軍」といわれているように、最近では認知症を発症するリスクは非常に高まっています。この記事を読んでいる方のなかにも、「そういえば、うちの親も最近怪しいなぁ……」などと思い当たるふしがある人もいるのではないでしょうか?

どんな病気でもそうですが、早期発見&早期治療は重要。しかし、家族や身近な人達から勧められても素直に認知症の検査に行く高齢者ばかりではありません。

ともに認知症だった私の両親の場合も、精神科(病院によっては「もの忘れ外来」「認知症外来」などの表記の場合も)に対する偏見が強かったため「そんな病院に行くぐらいなら、死んだほうがマシだ!」と拒み続け、最初の受診にこぎ着けるまでが大変でした。

今回は、認知症の疑いがあるにもかかわらず受診を拒否する親の心理がどうなっているのか、そんな親を病院へ連れて行くためにはどんな対策があるのかなどをご紹介します。

認知症は早期発見&早期対策が重要

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認知症の一歩手前の状態は、「軽度認知障害(MCI)」といいます。食事や入浴、着替えといった身の回りのことはできるものの、金銭管理や家事など複雑な動作ができなくなっている状態で、そのまま放置しておくと数年後には認知症を発症するといわれています。

このMCIの時点で診断を受け、適度な運動や食事の改善、認知トレーニングといった正しい対策を行えば、認知症の発症を遅らせる可能性が高くなります。人によっては、亡くなるまで発症しないで済むこともあります。

また、既に認知症を発症している場合でも、少しでも早く手を打つことが重要です。認知症には「長い時間をかけて脳の神経細胞が破壊され、症状が徐々に悪化していく」という特徴があり、早いタイミングで治療を始めることで、症状の進み方を緩やかにできる可能性が高くなるからです。

「認知症治療を開始するまでの流れ」に新たな傾向が

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では、早期発見&早期対策が必要であるにもかかわらず、専門医での受診を拒否する高齢者がいるのはなぜでしょうか?

従来、認知症治療は下図①のような流れで始まっていました。

例えば、夕食を取ったばかりの親が「ご飯はまだ?」と尋ねてくる。おかしいと思った子どもが、「認知症かもしれない。早く病院へ行こう」となだめすかして受診させ、認知症治療が始まるといった流れです。現在も、このパターンで受診する人は少なくないはずです。

しかし、ここ数年、いろいろな専門医や介護家族と話すうちに、この流れに変化が生じているように感じています。それが下図②のような流れです。

最近では、テレビや新聞・雑誌などで、この言葉を目にしない日の方が珍しいぐらい、「認知症」という言葉がよく知られるようになりました。また、これは報道のあり方にも問題があると思うのですが、認知症に対する不安や恐怖をあおるような報道が多く見受けられます。

それを目にした高齢者のなかには「認知症になったら、自分の人生は終わったのも同然」と考えてしまう人もいるのです。そして、「認知症にはなりたくない」、もっと言えば「認知症だけにはなりたくない」という思いに至ります。

その結果、親が「たまたま勘違いしただけ。普段は問題ないから大丈夫」と自分の不安に蓋をして、子どもに対して「ごめん、ごめん。ちょっとした冗談だから」と取り繕ったりしがちです。これは「認知症を認めること=自分がもうダメだと認めること」と思い込んでいて、事実を受け止められなくなっているためです。

親が認知症の疑いを否定して、普段通りに振る舞うと、子どもの立場でそれを見抜くのは困難です。この時点では、脳のごく一部に不調が発生しているだけで、それ以外はまったく問題がなかったりするため、周囲からすると何も変わらないように見えます。

しかし、時間とともに脳の損傷が少しずつ進み、また失敗をする。親がごまかす。それを繰り返して、ごまかしきれなくなったときに初めて子ども達が「あれ、うちの親は認知症なのでは?」と気づくことが多いようです。

そこで親に対して「認知症かもしれない。早く病院へ行こう」と伝えても、隠してきた秘密を暴かれ、自分でも認めたくない事実を突きつけられた親は傷つき、「認知症なんかじゃない」「絶対に病院になんか行かない」と、怒ったり嘆き悲しんだりします。ここで子どもが遠慮して、様子見をしているうちに、さらに病状は悪化していくというわけです。

「家族がようやく腰を上げたときには、既に認知症はある程度進んでしまった可能性が高い」というのが、私の持論です。

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どのようにして受診へつなげるか

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では次に、どのようにすれば嫌がる親に受診してもらうことができるでしょうか?正直なところ、「これさえやれば大丈夫」という必勝法はないのですが、いくつか試してみるべき方法はあります。

1.地域包括支援センターに相談する

まずは本人を抜きにして、地域包括支援センターに相談してみましょう。「親が認知症のようなのですが、病院に行きたがらないんです」と伝えれば、「○○クリニックなら、健康診断と併せて認知症のチェックもしてくれますよ」といった情報を教えてもらえます。

2.治療ではなく予防だと言い、安心させる

親に気持ちよく受診してもらえるよう、言い方を工夫することも有効です。「いつまでもしっかりしていてほしいから、元気なうちに病院に行って、これからも認知症にならないための方法を教えてもらおう」とか「健康診断と同じで、定期的にチェックすれば、怪しいところが早めに見つけられるし、認知症にならなくても済むらしい」などとあくまで予防であると伝えると、抵抗感が少し薄れるはずです。クリニックも、地域包括支援センターからの紹介であれば、ある程度は口裏を合わせてくれますし、スムーズに診てもらえるところが多いはずです。

3.親しい人が認知症のふりをして付き添いとして受診を頼む

あるいは、認知症でないほうの親や友人にお願いして、「自分が認知症なのか不安だから、付き添ってほしい」と一芝居打ってもらうという方法もあります。大切に思っている人が認知症の不安を抱いているのなら、意気に感じて病院へ行ってくれる可能性は大いにあるはずです。

診察室に入る際は、「1人だと心細いから、一緒に来て認知症の初期テストなども付き合ってほしい」と頼めば、なりゆきで受診してくれるかもしれません。この場合、あらかじめ医療機関にも連絡をして、口裏を合わせてもらうように頼むことが重要となります。

あくまで私の個人的な意見なのですが、介護において、なかでも認知症の受診については、真実を伝えることが必ずしも最善とは限りません。重要なのは親本人を強く傷つけないこと。そしてできるだけ早期に受診してもらうことです。大切な親や家族を守るために、医療機関への入り口は正面玄関からでなくてもいいのではないでしょうか。

3回にわたってお届けした「うちの親が認知症?~まさかに備えて「介護」を学ぶ」。いかがだったでしょうか?もしかしたら明日、自分の親に認知症の症状が現れるかもしれません。親が元気なうちに、ぜひ認知症についての知識を蓄え、慌てず対処できるよう備えてください。

編集:株式会社エアリーライム 文:横井孝治

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