【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論Vol.1 為末大さん 第2回

長所を生かして、パフォーマンスを上げる(全3回)

 

第2回 身体が先か、脳が先か。身体の動きに脳はだまされる

2001年の世界陸上選手権400mハードルで銅メダルを獲得し、日本に初めて世界大会スプリント種目のメダルを持ち帰った為末大さん。2012年に現役を引退した後は、著書の執筆、会社経営など、幅広く活躍されています。為末さん独自の視点と考察による「自分らしくパフォーマンスを上げる方法」、第1回では、為末さんが見つけた仕事のスタイルについてお聞きしました。第2回の今回は、脳と身体の関係、為末さんのパフォーマンス論、情報社会の中で大切にすべきことなどについてのお話です。

割り箸で口角をあげれば、楽しい気分になる? 

私たちは、脳が行動を指令している、動作や感情は内側からの働きだと考えがちです。しかし、実は外側で起きていることを、脳が勝手に推測してフィードバックしているという側面があるそうです。

「有名な実験があります。割り箸を横にして口にくわえると、口角が上がりますよね。そうすると、脳が“笑っているので楽しいんだろう”と推測するそうです。楽しいから笑顔になるだけでなく、笑顔をつくると楽しくなるということが起こるということです。また、笑顔が生まれる大きな理由の一つに、“つられ笑い”があるんですね。これも外側からの働きかけですね。」

楽しいという感情が、自分の内側から生まれるだけのものではなく、外側から入り込んでくるものでもあるということですね。

外からの信号でメンタルトレーニングをする

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為末さんは、この「外側からのアプローチ」は、メンタルトレーニングなど、セルフコントロールに生かせるといいます。

「行動経済学でいうと『ナッジ』というそうですが、外側からの何かしらの信号で、自分の欲求や行動を変えることができる。それを利用すれば、自分で自分の脳や思考をある程度コントロールできるわけです。スポーツ選手が行うメンタルトレーニングも、ほとんどが身体をどう扱うか、身体側からのアプローチなんです。例えば試合前に緊張しているとき、“リラックスするようにイメージしましょう”といっても難しい。そうではなく“息を深く吸って、肩の力を抜く“というように、メソッド化しやすいものに落としていくわけです。自分の身体側に対して働きかけると、そのように感じるようになってくる方法を見つけだすのです」

為末さん自身も、試合前などには、ヘッドホンをつけてパーカーのフードを目深にかぶり、目線を下げるという方法で、外の世界と遮断して集中力を高めていたそうです。

脳のパフォーマンスを上げるには歩くこと

必ずしも「脳が先」ではなく、「身体が先」になることもあるのはよくわかります。為末さんが考える、脳のパフォーマンスを上げる方法を教えていただけますか?

「僕が一番おすすめしているのは“歩くこと”です。有酸素運動を行うと、前頭葉が活性化するといわれていますが、実感でもそう思います。人類史を振り返ると狩猟時代が長くあり、定住するようになってからのほうが歴史は浅い。狩猟時代の人間は、1日10㎞以上は歩いていたようですが、歩いているときにアタマが働く種でなければ、生き延びては来られなかったと思います」

なるほど、人類史から考えても、人間は歩く生き物なのですね。

「ジョン・レイティ博士(ハーバード大学医学大学院臨床精神医学准教授)の著書の中で、アメリカの高校で、朝、授業の前にジョギングをさせると、1限目の授業での生徒のパフォーマンスが向上して、記憶の定着が良くなった例が挙げられています。歩くのが一番手っ取り早くていいんじゃないでしょうか」

経験したことの積み重ねが思考となる

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(写真:関 健作)

これらのことから、為末さんは、「身体的に経験をしていないことを、本当に思考できるのか」と常に考えているそうです。

「赤ん坊は最初、自分の内側と外側の違いが分からないんですね。自分の手を動かそうとすると、“脳から信号が送られて”動く。けれども、近くにあるおもちゃは動かない。“動かそう”ということと、“動いた”という反応がリンクして“なるほど、この目の前で動いているもの(手)は、どうも自分と何らかの関係があるものらしい”と分かり、人間は自分の内と外を認識するわけです。こんなふうに、人間のさまざま認識や感覚は幼い頃から積み重ねてきた経験の上に成り立っているんじゃないかなと思うわけです。だから、少し乱暴ですが、“今まで経験してきたことの上でしか、ものを考えられない”とも言えるのではないかな、と。そう考えると、経験と思考というのは切り離せないと思います」

物事の判断に大切なのは内臓感覚

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経験ということでいえば、為末さんが大切にしていることの一つに、「ガッツ・フィーリング」ということがあるそうです。

「ガッツは内臓、フィーリングは感覚。つまり、例えば何かを見たときに、ドキドキしたりワクワクしたり、あるいはムカムカするといった、理論立って説明はできない感覚のことで、いわば身体の感覚から来るシグナルです。こういう感覚も経験によって培われたもので、自分の本質に根差した感覚なんです。ぼくは物事を判断するときに、このガッツ・フィーリングを大切にしています。何か見たり聞いたりしたときに、こういう感覚になるのは自分がどう感じているからだということを理解しておくことで、頭で分かる情報と分けて考えるようにしています」

例えば、AかBか選ぶときに 「世の中的にはBのほうがいい」という情報があると、それに迷わされがちです。内臓から揺さぶられるものが何なのかを理解しないで、世の中的な情報で選択すると、やってもやっても自分の心が満足しないというようなことが起きてしまうのではないかと為末さん。

「ぼくは好奇心が強く、巷の情報に目移りしてしまうので、放っておくとあれこれ興味を持って散らかってしまいます。だから、自分がドキドキすること、ワクワクすることをやり続けていくという軸を作っています。そうすると、ガッツ・フィーリングが反応しないものはそぎ落として、とてもシンプルになれる。それが、いいパフォーマンスを生むことにもなると思います」

自分の内から湧き出る感覚を意識することが、自分の能力を結集できてパフォーマンスを上げることにつながるということが分かりました。最終回は、為末さんのライフワーク、旅、そして最新作の絵本『生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば』についてうかがいます。

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為末 大(ためすえ だい)

1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初めてメダルを獲得。3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2019年11月現在)。現在はSports×Technologyに関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partners(http://www.deportarepartners.tokyo/)の代表、アジアのアスリートの育成・ネットワークを構築する一般社団法人アスリートソサエティ(http://www.athletesociety.org/)の代表理事を務める。主な著書に、『走る哲学』(扶桑社、2012年)、『諦める力』(プレジデント社、2013年)など多数。

2019年10月に新刊となる初の絵本『生き抜くチカラ ボクがキミに伝えたい50のことば』(日本図書センター)発売。

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編集:株式会社エアリーライム ライター:菅野和子

カメラマン:木村和敬

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【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論 Vol.1 為末大さん 第1回

【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論Vol.1 為末大さん 第3回

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