【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論Vol.2 古屋晋一さん 第1回

音楽と脳の不思議な関係(全2回)

第1回 音楽に親しめば、脳はもっと動き出す

音楽を聞いて「楽しい」「わくわくする」あるいは、「背筋がゾクッとする」というような体験は、誰もがあると思います。では、それは科学的に見るとどのように脳が働いているのでしょうか?

『ピアニストの脳を科学する』の著者であり、音楽と神経科学の関連を研究するソニーコンピュータサイエンス研究所の古屋晋一さんにお聞きしました。

音楽は右脳だけではなく、脳全体が使われる

古屋さんの職場は、五反田にあるソニーコンピュータサイエンス研究所です。ここを拠点に、演奏家の筋肉活動や脳の働きを調べるなど、音楽と神経科学のメカニズム「音楽演奏科学」を研究し、さまざまな研究機関や教育現場に関わってグローバルに活動しています。

「日本では、認知神経科学と音楽の研究の認知度は、まだまだ低いんですよね。さまざまな可能性のある分野なのですが」と古屋さんは語ります。

「音楽を聴くという行為ひとつ取っても、脳のさまざまな箇所で知覚しています。よく、“音楽は右脳、言語は左脳”と単純に分けて言われますが、それは正しくなく、脳の各部がまさにオーケストラのように役割を分担して音の情報処理をし、ひとつの音楽として認識をしているのです」

モーツアルトを聴いても頭はよくならない

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脳にまつわる話題は、インターネットや雑誌などで目にする機会が多くあります。しかし、古屋さんによると、「科学的根拠のない」ものも少なくないそう。かつての「モーツアルトを聴くと頭が良くなる」というブームもそのひとつだと言います。

「これは、モーツアルトを聴かせた後にIQテストをしたところ、特に図形問題など空間IQの成績が上がったという論文が、イギリスの学術雑誌『ネイチャー』に掲載されたことから始まりました。でも、そのあとに、シューベルトを聴かせても同じ効果があるとか、あるいは詩の朗読が好きな人には、それを聴かせても同じような効果があることがわかったんです」

つまり、モーツアルトでなくても、音楽なら何を聴いてもIQが上がるということなのでしょうか?

「音楽を聴いて脳の覚醒度が上がることによって、IQがあくまでも一時的に上がっているだけであって、残念ながら“頭がよくなる”わけではない。聴いた直後に脳が刺激されて、ぼーっとしていた頭がシャキッとする、そんな程度です。好きな音楽というのがポイントだと思います。嫌いな音楽を聴いても覚醒しません」

好きな音楽を聴くことで、頭をシャキッとさせる、自分のテンションを上げるという効用は十分にあるということ。うまく活用したいですね。

音楽は言語能力を上げるサプリの役割となる

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同様に、音楽と語学の能力の関連性について、たとえばリズム感があると語学のスキルが上がるという説があります。そのあたりは科学的にはどうなのでしょうか?

「アメリカのノースウエスタン大学のニーナ・クラウス教授が、言語の発達、言語の情報処理に、音楽は有効であるということを発見しました。音楽を訓練することによって、情報処理に関連する機能が上がるという例はいくつかあります」と古屋さん。

「日常的な会話は、うるさいレストランなどでもしますよね。脳はそういう場所での発話がとても苦手なんです。静かな部屋ではちゃんと聞けていたものが、ノイズがある部屋では聞き取りの能力が落ちる。その落ち具合が音楽を訓練している人のほうが少ないということはわかっています。聴覚野に入ってくる前の段階で、ノイズを除去する能力が高い。われわれはフィルターをかけるという言い方をしますが。フィルターをかける能力が高いということです」

確かに、日常の会話は、なにかしら雑音のあるところで行われます。ノイズが会話能力を落とすとは、意外と気がつきませんでした。

「英会話教室ではよくしゃべれるけれども、実際に海外に行くと全然しゃべれなくなってしまうというのは、雑音の中で能力が低下してしまうというわけです。音楽を聴いたり演奏したりすることは、言語能力を低下させないサプリのような役割があると思いますね」

コミュニケーションとしての語学力と音楽

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「もうひとつ、音楽と語学力に関連する大きなポイントがあります」と古屋さん。それは、純粋に「ピッチ=音の高い、低い」を聞く能力だそうです。

「英語を話していると、疑問文なのか肯定文なのかわからないというシチュエーションがありますよね。英会話教室では、疑問文の最後は明らかに上がるかもしれませんが、日常会話では文末が上がっているのか下がっているのかが、聞き取りにくいことがよくあります。そのちょっとした差を、音楽が得意な人は聞き分けることができます」

さらに古屋さんは、聞き分けるという意味では、声色も重要と言います。

「たとえば、“プレゼンが終わった”と誰かが言ったとします。その声に宿っている感情を声色から、プレゼンがうまくいったのか、そうでないのか、推測できると思うんですね。会話の目的がコミュニケーション、気持ちを伝達しあうことであるのなら、それを正しく処理する能力は音楽を訓練した人のほうが高いといわれています」

途中で名前が出たニーナ・クラウス教授は、学校の音楽の授業を減らすことを反対しています。「相手の言っていることを感情も含めて、きちんと処理できるコミュニケーション能力が低下してしまうリスクがある」というのがその理由です。古屋さんもその意見には賛成で、音楽の授業をこれ以上減らさないほうがよいと考えています。また、子どもに限らず、大人になってからでも音楽に親しむことは、語学やコミュニケーション能力の向上に何かしら効用があるとも話してくださいました。

音楽と脳のメカニズムはとても不思議。まだまだお話しは続きます。次回は、音楽家のパフォーマンス力維持法についておうかがいします。

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古屋晋一(ふるや・しんいち)

プロフィール:音楽演奏科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)アソシエート・リサーチャー、上智大学音楽医科学研究センター センター長,ハノーファー音楽演劇大学 客員教授を兼務。京都市立芸術大学、東京音楽大学、エリザベト音楽大学にて非常勤講師。大阪大学基礎工学部卒業後,同大学大学院人間科学研究科,医学系研究科を経て,博士(医学)を取得。ミネソタ大学神経科学部,ハノーファー音楽演劇大学音楽生理学・音楽家医学研究所にて勤務。脳科学や身体運動学の手法や考え方を用いて、音楽を愛するすべての人の健やかで創造的な演奏活動を支える「音楽演奏科学」の確立に力を注いでいる。

編集:株式会社エアリーライム ライター:菅野和子 カメラ:新山貴一

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【シリーズ】プロフェッショナルのパフォーマンス論Vol.2 古屋晋一さん 第2回

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